ただ、荒木と立石の両コーチが指摘するように、守備の動きを1つ1つバラバラにしてみると、右ふくらはぎの肉離れの影響も多少はあるのかもしれないが、右足に重心が掛かったときの「右回しのトス回し」や「右へのサイドステップ」が鈍かったりするのが分かる。

 これは、一連の動作の中では気づきづらい“弱点”なのだろう。スピードや体の強さでカバーできてしまうのは「若さ」ゆえなのだ。荒木コーチも立石コーチも、それが経験値として分かっている。根尾という中日の今後を担う逸材を預かっているからこそ、将来を見越した、確固たる土台をきっちりと作り上げようとしているのだ。

「どこか1カ所を直すと(全体も)直るんですよ。だから、どれだけ基礎を築けるか。焦らないでやってほしいし、こっちも焦らせたくない」と荒木コーチは言う。第1クールの5日間、2軍本隊の練習メニューに合流せず、リハビリを主眼とした抑えめのメニューだったが「順調に来ていると思います」と根尾。打たなくても、ユニホームをドロドロにするような激しいノックを受けなくても、着実に進歩している実感があるのだろう。

 急がば回れ。損して得とれ。

 躓いたかに見えた根尾のプロ生活のスタート。しかし、“遠回り”に映るこの時間こそが、間違いなく将来の血となり、肉となるはずだ。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。