マスコミは、これまでの原発に否定的な発言と比べて真逆だと、半ば驚きをもって報じたが、そんなことはない。前述の背景を考えれば、中西氏の本音は、原発推進。3回の発言は、極めて一貫していることはすぐにわかるだろう。

 結局、1月17日に、日立は取締役会で、英国への原発輸出計画の「凍結」と3千億円近い損失計上を決めた。事実上の「撤退」だと報じられたが、これも前述の文脈からとらえれば、少し違った解釈が成り立つ。

 まず、1月10日の安倍・メイ会談で、安倍総理が新たな譲歩をメイ首相から引き出すことに失敗したのに対して、日立が、「それなら、もう英国への原発輸出は止めるよ」と政府に対して最後通牒を発したという意味がある。子会社は解散せずに残すのも、原発輸出から手を引いたと見るのは早計だ。株価への悪影響を避けて、リスクは採らないと市場に宣言するが、政府がもっと本気で交渉して、英国政府から譲歩を引き出し、リスクゼロの仕組みが保証されるなら、いつでも復活するということを考えているはずだ。

◆「核武装」と「利権」で止められない原発

 民間企業が原発を諦めてはいないと言っても、「確実に儲かる仕組み」を実現しない限り、民間だけで原発推進はできない。そこで、政府がどう考えているのかが次のポイントだ。

 政府が原発にこだわる理由は二つだ。

 一つは、「核武装」を可能とする技術を維持すること。もう一つは、利権の維持だ。

 前者については、安倍総理はじめ自民党のタカ派や野党の一部に、抑止力としての核武装の選択肢の維持という考え方を持つ議員は多い。もちろん、表向き、そういう立場を表明する議員はほとんどいないが、アジアから手を引きかねないトランプ大統領の登場で、抑止力のために、中国、北朝鮮の核兵器に対抗しうる核武装の道を閉ざすべきではないという考え方は、むしろ強くなっていると見られる。

 後者の「利権」については、自民党議員だけでなく経産省にとっても重要な話だ。電力会社と原発関連メーカーは、今もなお、経産省にとっての重要な天下り先だからだ。

 これら二つの理由から、政府が原発推進を諦める可能性はほとんどない。

 再エネに負けた原発推進企業が、半ば居直って、政府の支援が無ければ止めるぞという脅しをかけてきたのも、政府は絶対に原発を止められないと知ったうえでのことだ。今後は、政府に弱みを握られている東電に代わって、他の電力会社と日立などのメーカーが中心になって、政府の尻を叩くという構図がはっきりしてくる可能性がある。

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