◆原発「もうつくれない」も原発「再稼働どんどん」も一貫した主張

 まず、昨年12月17日の対英原発輸出に関する中西氏の発言。

「もう限界だ」「『もう限界だよ』と英国政府には言ってある」というものだ。日立は英子会社「ホライズン・ニュークリア・パワー」を通じ、英国で原発2基の新設計画を進めていた。総事業費は約3兆円。うち2兆円超は英政府の低利融資で賄い、残り9千億円を日立、英政府・企業、国内の大手電力・金融機関の3者による3千億円ずつの出資で調達する計画だった。しかし、東京電力や中部電力などの電力会社や国際協力銀行、日本政策投資銀行などが出資を拒否し、日本側の3千億円が集まらなかった。

 そこで、英国政府にさらなる支援を求めたが、英国政府も国民世論を気にして、それ以上の譲歩はせず、日立取締役会のゴーサインも得られなくなってしまった。そうした中での中西発言は、事実上の原発輸出断念宣言だと騒がれた。

 しかし、前に述べた背景をベースに理解すれば、この時点での発言は、今年(2019年)1月に英国メイ首相との会談を控えた安倍晋三総理に対して、「政府が責任を持って英国と交渉してくれ。好条件を引き出せなければ、日立は撤退するよ」という警告を発したと見ることができる。

 次に、世の中を騒がせたのが、中西会長の年頭会見での発言だ。

「お客さま(電力会社)が利益を上げられない商売でベンダー(メーカー)が利益を上げるのは難しい」という発言に、日立が原発事業を諦めたのではないかという報道もあった。しかし、そんなことはまったくありえない。

 この発言も「政府が、電力会社に儲かる仕組みを保証できないなら、俺たちは手を引くぞ」という脅しだったとみるべきだ。

その時に出た「どうするか真剣に一般公開の討論をするべきだ」「国民が反対するものはつくれない。反対するものをエネルギー業者や日立といったベンダーが無理につくることは民主国家ではない」という発言は、「だから、政府が責任を持って国民を説得しろ」という意味だと解釈できる。

 そして出たのが15日の「再稼働をどんどんやるべきだ」「原子力に関する議論が不足している」「討論しないといけない」という発言だ。

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中西氏の本音は…