やむなく食器洗いを中断して向かい「いいよね。(おむつを)替えない人は」と言うと、夫は急に怒りだし、娘のズボンをバンと床にたたきつけ、ドアをバーンと荒々しく閉めて寝室に去って行った。寝室からもゴンと大きな音が聞こえてくる。

 これには夏美さんもムカムカときて「もー、いいや!」と、プチ家出を試みた。そうはいっても、一人でスーパー銭湯に行っただけだ。しかも、たった40分。本当は2時間くらい温泉につかっていたかったけれど、あんなに怒っていた夫と一緒にいる娘が気になっていそいそと帰るしかなかった。

 そのくせ、夫は他人のフェイスブックや子育てブログを見ては涙目になって「本当にお母さんって大変なんだね」とうるうるしている。買い物をして、途中で赤ちゃんがおっぱい欲しがって授乳室を探して……。

「ちょっと!他人のブログで泣く?身近な妻の奮闘を見て泣かないわけね」

 結婚しても姓は変わらず、子どもができても、夫の起きる時間や生活パターンは変わらない。しかし、女性の側はそうはいかない。「男はずるい気がする」と夏美さんの気持ちは冷めてしまう。夏美さんが特に苦しさを感じるのは、「夫しか自分のやっていることを見ていないこと」。小さな狭い家のなかという社会のなかでしか生きていないと思った時は、自分がちっぽけになった気がして嫌だった。いろんな人と出会う日々があった結婚前とは大違い。ギアチェンジができない。

 誰かに自分が生きていることを見て欲しくて、フェイスブックに料理の写真をアップする。外では夫を主人と呼ぶこともある。まるで“良い奥さん”。本当の自分ではない。それでも、誰かに見てもらって「いいね!」ボタンをクリックして欲しい。夫以外の人間から。

 落ち込みが激しくなり、何もできなくなって、心療内科にかかった。夕食を作っていても、どの材料がいるのか全く分からない。頭のなかで、どうしよう、どうしよう、という言葉がぐるぐるとした。

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子供は欲しいが、働きたい