今回、宮崎氏に問い合わせたところ、測定事業で個人に付けられた番号を研究でも個人IDとして使用していたことがわかった。つまり早野氏、あるいは宮崎氏が2月のデータを保有していた場合、伊達市が住所がわからないように加工しても、個別の番号から個人情報を識別できる状態になっていたのである。伊達市が「個人情報保護に配慮した処理」をしてデータを提供したという説明には根拠がなくなるのだ。

 自治体の個人情報保護に詳しい情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長はこのような状況について、「脱法的ではないか」と強く批判する。

「実質的に識別可能な状態にあるにもかかわらず、8月に提供したデータには個人情報を含んでいないので問題ないかのように扱うのは、住民から見れば詐欺的な行為と言えます。伊達市は個人情報を含むデータを2月に提供したことを認識しているのですから、本来は、8月に研究用としてデータを出す前に、2月の情報を破棄したことを書面で証明するなどの確認手順を踏まないと、個人情報保護に配慮した処理がされたことにはなりません。また、情報は持っていたが使っていないという主張も、通りません。個人が特定できるデータを持っているのであれば、照合は可能ですから個人情報として扱うべきです。照合を実際にするかどうかに関係なく、誰がどのように、いつまで保管し、どうやって破棄したことを確認するのかなど、事前に取り扱いを明確にすることが必要です。それをしていないのは大きな問題というほかありません」

 前出の井上准教授も、「一義的に責を負うのは、杜撰な情報提供を行った伊達市でしょう。一方、これを受け取った研究者も、この状況を看過したばかりか、仮に約束違反と知りながら漫然と使用を継続していたならば、一方の当事者であるといえます」と厳しい。

「個人情報が社会にとって重要な知識をもたらしうる場合、どこまで本人の同意を厳密に得る必要があるか。これは法解釈上の大きな課題です。しかし、今回はそれ以前の問題ではないでしょうか。この研究は、個々人や地域にとって重要な意味を持ちうる情報を取り扱うものであり、『個人情報ではない形での情報の取り扱い』と『同意の取得』を市民に約束していたにもかかわらず、これらの約束は疎かにされてしまいました。調査は市民の生活と深くかかわるものですが、今回のようなことがあれば、人々は自治体や研究者による説明を信頼できなくなるでしょう。また、こうした雑な運営のもとで生み出された成果を我々は信用できるでしょうか。情報を出した自治体側もこれを受け取った大学側も、組織的な反省と今後の対応策を目に見える形で提示してほしいと思います」

 伊達市はこれからどのように対応するのか。また、研究者が透明性をもって市民の情報を適切に扱っていくのか、厳しく見ていく必要がある。(木野龍逸)