しかし、伊達市が福島県立医大に提供したデータを情報開示請求で入手した伊達市民らは、「データには同意の有無を示す項目がある。見てないなんてありえない」と憤る。確かに市民から提供された資料を見ると、データ一覧の右端に「同意有無」の項目があるのが一目でわかるようになっているのがわかる。

 また、研究倫理に詳しい東京大学の井上悠輔准教授は、同意書の手順について「不安を感じる」と述べ、次のように指摘した。

「この同意書は、問診表と研究への同意書を一枚の紙で運用していますが、『問診表兼同意書』というのが強引に見え、読んだ人が果たして自由な判断ができたかどうか、疑問に感じます。検査結果の『研究機関への提供』と『本人への連絡』をひとまとめにして説明し、同意を求めていますが、これらは本来別々の流れのもののはずです。それを一緒にしているため、両者は一体か、あるいは前者(研究へのデータ提供)が後者(本人への検査結果の連絡)の条件であると受け取られる可能性があります」

 この件ではもうひとつ、個人情報の取り扱いに重大な瑕疵があったことが推察される点があった。

 伊達市は2015年8月1日に福島県立医大に分析を依頼した時、「個人を特定しうる情報を削除した上で、個人情報保護に配慮した処理を施した形」でデータを提供すると明記していた。それを受けて福島県立医大は、「研究者には個人特定が可能な情報は市により除去され提供されない」と研究計画書に記載した。

 ところが2015年2月に早野氏と宮崎氏は、伊達市の測定事業を実施している事業者の千代田テクノル(東京)から、品質向上のためという名目で個人情報を含むデータの提供を受けていたのである。このことは伊達市も承認していた。データには個人に付けられたID、世帯番号、地番を含む住所、性別、生年月日、ガラスバッジの測定結果などが記載されていた。

 問題は、このデータがその後、どうなったのか確認できないことだ。

 取材に対して早野氏、宮崎氏はともに、データは消去したと回答している。しかし伊達市に聞くと、破棄されたのかどうかは「把握できていない」と話し、「データ(の管理状況)を把握する必要はあった」と、手続きの不備を認める。

 他方で早野氏、宮崎氏は、研究では測定事業の住所情報は使っておらず、伊達市により数値化された情報なので問題はないという認識を示している。

 ほんとうにそうだろうか。

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