ガラスバッジのサンプル 線量測定データ (c)朝日新聞社
ガラスバッジのサンプル 線量測定データ (c)朝日新聞社

 地方自治体の個人情報の扱いの杜撰さと、研究者の個人情報に対する意識の低さが浮き彫りになる事態が発生した。

 伊達市は2018年12月21日、第三者を含めた「調査委員会」を立ち上げることを発表。調査開始時期や人選は未定だ。

 東京電力福島第一原子力発電所の事故後、福島県伊達市が市民を対象に実施している被ばく線量測定事業に関連して、伊達市が福島県立医科大学に測定結果の分析を依頼した際、明確に提供への不同意を示していた97人を含め、2万7千人分以上の本人同意を得ていないデータを研究者に提供。研究者がすべてのデータを論文に使っていたのだ。加えて、分析依頼の約半年前には、同じ研究者らに、個人情報にあたる住所や生年月日などが含まれたデータが提供されていたことも新たにわかった。

 データの提供を受けたのは、東京大学教授(当時)の早野龍五氏と、福島県立医大助手(当時)宮崎真氏。2015年8月に伊達市は、当時の仁志田昇司市長の名前で福島県立医大に対し、被ばく線量測定事業で得られたデータの分析とあわせて、分析結果を論文で発表するよう依頼していた。

 この依頼を受け、同大の放射線健康管理学講座は宮崎氏を主任研究者、早野氏を研究担当者にした研究計画書を作成。同年12月に倫理委員会で了承され、2016年と17年に宮崎氏と早野氏の共著で論文が発表された。

 二つの論文の前提となる福島県立医大の研究計画書には以下の記載がある。

「研究対象者については、伊達市からこの研究のもととなるデータを取得する事業について説明を受け、事業に参加しデータ提供を行うことに同意した者のみを対象とする」

 しかし、この条件は守られていなかった。

 同意した市民の人数が明らかになったのは、2018年9月4日の伊達市議会だった。伊達市の健康対策担当参事は高橋一由市議の質問に対し、不同意が97人、同意書の未提出が2万7233人と回答。しかし論文では、不同意や未提出まで含めたデータを個人情報が含まれた状態のまま分析していた。倫理の問題だけでなく、合法性が問われるのではないかという研究者もいる。

 同意のないデータを提供したことについて伊達市健康推進課は、「どうなっていたのか、当時の関係者に聞き取りをしています」と、歯切れが悪い。今後については、「これから(個人情報保護条例の担当部署の)総務部なども含めて、市として調査することになると思います」という。

 一方の宮崎氏と早野氏は、メールでの取材に対し、「委託元との信頼関係の上で、適切なデータが渡されているという前提であり、当方が確認をしていないこと自体が問題であるとは認識していません」(宮崎氏)、「委託元から適切なデータが渡されているという認識でした」(早野氏)と回答した。

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