『M-1グランプリ』で優勝した霜降り明星 (c)朝日新聞社
『M-1グランプリ』で優勝した霜降り明星 (c)朝日新聞社

 ここ数年、お笑い界にも高齢化の波が押し寄せている。かつては「30歳を過ぎて売れていなければ辞めた方がいい」と言われるほど、芸人たちがテレビに出始める年齢が低かった。とんねるず、ダウンタウン、ウッチャンナンチャンをはじめ、多くのスター芸人は20代のうちに世の中に出て、レギュラー番組を持っていた。

 だが、最近では、30代で売れていない芸人というのは珍しくも何ともないし、ライブシーンでは40代の芸人もゴロゴロいる。また、テレビで活躍する芸人の年齢も上がっている。

 今のテレビで主戦力となっているのは、有吉弘行、バナナマン、くりぃむしちゅーなど40代の芸人である。バラエティでひな壇に座ったり情報番組でコメンテーターを務めたりするのもその年代が中心だ。また、ビートたけしや明石家さんまのように、還暦を過ぎても第一線で活躍しているレジェンド芸人もいる。

 ただ、今年、少しだけその傾向に変化が見られた。20代の若い芸人がコンテストで結果を出すケースが相次いでいたのだ。12月の『M-1グランプリ』では20代コンビの霜降り明星が優勝。9月の『キングオブコント』で優勝したハナコは3人中2人が20代。3月の『R-1ぐらんぷり』で優勝した濱田祐太郎も20代である。

『M-1』の参加資格は結成15年以内、『キングオブコント』『R-1』は芸歴制限なし。いずれの大会も芸歴の長い芸人が参加可能であるため、どうしても30~40代のベテラン芸人が優勝することが多かった。これだけ相次いで20代のチャンピオンが誕生したのは珍しいことだ。

 そもそもテレビに出る芸人が高齢化している理由の1つは、テレビの視聴者がどんどん高齢化しているからだ。最近のゴールデンタイムの番組では、やたらと健康関連の情報が目立つ。その手の番組は健康に関心の高い高齢者をターゲットにしている。その方が目先の数字が見込めるからだ。

 だが、テレビ制作者もこの状況に満足しているわけではない。たとえ数が少ないとしても、若い視聴者を取り込みたいと考えている人は多い。若い人がテレビを見なければ、長期的にはテレビ業界全体がどんどん衰退していくことになるからだ。また、テレビ局のビジネスはスポンサーからの広告料で成り立っている。スポンサーは購買意欲の高い若者にテレビを見てもらうことを求めている。必ずしも表面的な数字だけがすべてではないのだ。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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