ただ、現時点では、テレビは若者のニーズを十分につかみきれていない。多くの若者はYouTubeなどの動画サイトを熱心に見ているが、テレビは昔よりも見られなくなっている。

 テレビの世界でも、かつては深夜番組で若い芸人を育成しようという風潮があった。特にフジテレビはそれに熱心だった。深夜に若手芸人の番組が放送されて若い視聴者に人気を呼び、その番組がゴールデンに繰り上がってメジャーになる、という成功の方程式があった。『めちゃ×2イケてるッ!』『はねるのトびら』などはその典型例である。

 だが、最近ではそういう番組も減っているし、たまにあっても定着しないまま終わってしまうことが多い。そんな中で、メジャーなコンテスト番組で若い世代が結果を残しているのは良い兆候である。

 お笑いにはもともと年齢のハンディキャップはない。芸歴を重ねれば重ねるほど技術は磨かれていくが、根本的なセンスはそれほど大きくは変わらない。若い芸人が上の世代をどんどん打ち負かしていくというのもありえないことではない。

 例えば、将棋の世界では世代交代がすでに起こりつつある。藤井聡太をはじめとする若い棋士が活躍するようになってきた。将棋では情報の蓄積が進み、コンピュータによる研究なども盛んになっていて、若い棋士でも効率的に強くなるための研究を進められるようになっている。

 そんな将棋の世界で今なお第一線で活躍している羽生善治は「将棋が強くなるための高速道路が敷かれた。でも、高速道路を抜けた先では大渋滞が起きている」という言葉を残している。コンピュータなどの環境が整ったことで、ある程度のレベルまで強くなることは容易になった。ただ、その分だけ、全体のレベルが上がり、勝つための競争はさらに熾烈になっているというのだ。

 お笑い界にも同じようなことが言える。動画サイトなどでお笑いのネタや過去のお笑い番組を簡単に見られるようになったことで、笑いの勉強を効率的にできるようになった。だからこそ、今の若手芸人には早い段階で基礎を身につけている器用な人が多い。だが、そういう状況になっているからこそ、そこから抜け出すのはさらに至難の業となっている。霜降り明星をはじめとする20代の新星がお笑い界を席巻する日は来るのだろうか。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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