無断使用されていた電子書籍写真集は即座に販売中止措置が取られたものの、双方の弁護士を介した話し合いには時間を要した。A氏は一貫して無断使用ではなく、誤って混在したと主張。謝罪文の掲載や賠償金の金額などの諸条件の調整は難航した。

「弁護士を挟んでいるので、やり取りを1往復するだけでも時間がかかりました。また、Aさんのウェブサイトでの謝罪文掲載を要求したのですが、初めは拒否されました」

 約半年後、A氏のウェブサイトに謝罪文を3カ月間掲載し、香川さんに賠償金100万円を支払うことで合意した。

 無断使用の法的トラブルで100万円の賠償金ならば上々の結果と映るかもしれない。しかし、香川さんからすれば、知らぬ間に写真を無断使用されたうえに、半年以上も先の見えない交渉が続き、賠償金の半分以上は弁護士費用に消えたことから、手放しで喜べない複雑な気持ちが今も尾を引いている。

 また、コウテイペンギンの写真を撮影するために南極まで行き、膨大な時間やコストがかかっていたが、その分が賠償金に反映されていない。法的にはそうしたコストは考慮されず、あくまで精神的な被害に対する慰謝料を求めることしかできないのだ。

「交渉の最後に謝罪文を出すから賠償金を半額にしてほしいという申し出もありましたが、謝罪と賠償は別です。とにかく精神的な負担は大きかったですし、しんどい目に遭っただけの半年間でした」

 今回の事例は著作権侵害であるため、刑事事件として警察に相談することもできた。著作権侵害は親告罪であり、香川さんが写真の無断使用を知ってから半年以内に告訴する必要があったが、日々の仕事に追われ、そこまで手が回らなかったという。

「私がこの一件で学んだのは、大事な撮影データを安易に渡さないことと、信頼できる人に相談するということ。そして、最後まで妥協しないで相手に責任を求めていくということ。もうこんな経験は二度としたくありません」

 それでも香川さんが今回、口を開いてくれたのは、写真の著作権侵害に対する世間の関心の低さに危機感を覚えているからだ。

「被害に遭われている方には泣き寝入りせずに声をあげてほしいし、あきらめずに動いてほしいと思います」

◯香川美穂(かがわ・みほ)/徳島県生まれ。世界各地の自然や動物を撮影している。 写真展「南極-氷と皇帝ペンギンの世界」(富士フイルムフォトサロン大阪)、「Polar Smile」(エプソンイメージングギャラリーエプサイト)、写真集『北極スマイル・南極スマイル』(学研プラス)など。

アサヒカメラ特別編集『写真好きのための法律&マナー』から抜粋