ところが、A氏から届いたサンプルCDは、自分なら選ばない写真ばかりで納得しかねるものだったという。香川さんは自分で選び直し、現像したデータをA氏に送ってフォトCDを完成してもらった。その後、A氏からDVDが返却され、すべてが終わったはずだった。

「無断使用された写真はAさんがサンプルCDの表紙にしていたものだったので、気に入ったのかもしれませんね」

 その後、A氏は13年に問題の電子書籍写真集を発売。香川さんがA氏の無断使用に気づいたのは16年1月のこと。香川さんが写真集を買わなければ発覚することもなかったのだ。

「同じ動物写真家として応援の気持ちで電子書籍を買ったのに、まさかこんなことになるとは思いませんでした」

 香川さんはホッキョクグマやアザラシなどの動物写真も撮影しており、自身のウェブサイトに掲載している。販促活動でウェブに写真をアップすることもあった。そのため、香川さんが撮影した写真がツイッターのアイコンなどに使われるなどの無断使用は何度か経験していた。

「非商用で私的な使用であれば、ツイッターのアイコンやスマホの待ち受けに使われるくらいは構わないと思っています。でも、知り合いのプロ写真家が無断で商用使用しているとなると話は別。裏切られたような気持ちになりました」

 香川さんはこのままで済ますわけにはいかないと思い、信頼できる知人の写真家に相談。事態を重く見た知人の取り計らいにより、著作権に詳しい弁護士を紹介してもらう運びとなった。

 香川さんがまずA氏に求めたのは、

(1)電子書籍の配信を中止するよう配信元に通知することと
(2)企画の経緯
(3)販売数
(4)販売金額
(5)配信時期

 などについての回答だった。それらの確認後に謝罪と賠償を要求。弁護士と相談のうえ、コウテイペンギンの撮影のために南極まで行ったことも勘案し、写真使用料にペナルティーを上乗せして金額は100万円に設定した。

 一方、A氏の主張は、「コウテイペンギンのフォルダー内に香川さんのフォトCDのバックアップフォルダーがあり、自分の写真と混在してしまった」というものだった。しかし、香川さんには受け入れ難い理由だった。プロの写真家として、自分が撮影した写真かどうかはわかるはずだと考えたからだ。

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膨大な時間やコストは反映されず