同クリニックには不登校をきっかけに訪れる子が多いという。文部科学省の調査によると、2017年度に不登校となった小中学生は前年度より1万人増え14万4千人、5年連続で増えて過去最多を更新している。猪子さんは「不登校の背景にうつ病が隠れていることがかなり多いのではないか」と指摘する。

「学校への不安から不登校になっても、それだけなら家では普通に過ごせます。家でもベッドから起き上がれない、ほっとした表情が見られないなら治療が必要だと考えたほうがいいでしょう」(猪子さん)

 小学生の場合は、軽度のうつを発症したことで友達とうまくいかなくなり、いじめを受けて不登校になるというケース、さらに冒頭のA子さんのように中学受験を機に発症するケースが目立つという。

「大学受験はAO入試や推薦や大学附属からの進学など一般入試以外のルートができ、落ちても専門学校や浪人など選択肢がありますが、中学受験は落ちたら後がない、地元の中学にも行けないし、塾の先生に付いていくしかない……と追い詰められている子が多くいます。特に、いじめを受けて、いじめた子と違う学校に行くために受験を選んだ場合、何が何でも合格しなければと思ってしまいます。夏期講習を終えた秋頃から来院が増え、受験を乗り越えても中高一貫校で授業のスピードについていけずに中学で折れてしまったり、長く不調を抱え高校・大学生、大人になってからで発症することもあります」(猪子さん)

 集中力が下がって「勉強ができなくなった」と訴えるが、それでも机にかじりついていることがあるため、家族は診断を受けて驚くという。元気がなさそうに見える、イライラしている、嬉しそうな表情やほっとした表情がないなどの変化は要注意だ。

 中高生・大学生向けにストレスマネジメントや、悩みを抱える友人・恋人などを支えるための技術を教えているNPO法人「Light Ring.」の代表理事で、精神保健福祉士の石井綾華さん(29)は「子どものうつ病は大人とは現れ方が違う」と指摘する。大人の場合は職場に行けなくなるほか、アルコールの摂取量が増えたり、買い物依存症になったりと行動に現れやすく、周りの人が見て変化に気がつきやすい傾向がある。だが、子どもの場合は金銭的な制約などで、変化が見えにくくなる。「注目してほしいのは時期」だという。

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子どもの本音「親は忙しそうで相談できない」