神社では、その地方に伝わる「鬼八」の伝承を聞いた。ミケイリノミコト(神武天皇の兄)が、悪さばかりする鬼を退治し3つにわけて埋めたら、その鬼の霊が田畑に霜をふらせ作物に被害が出るようになり、困った村人たちが供養の祭りをするとそれが収まった、そこから毎年祭りがあるんですよ、という説明をガイドさんに受けていたら、古市クンが横でポツリと「へぇ、なんか、コスパ悪いっすね。最初っからひとところにまとめて祀っておけば一回で済んだのに」とか言いやがるではないか!土地の伝承をコスパの一言で片づけるその感覚は一周回って爆笑&新鮮。トウチャンもこういう変なこという若い子を面白がるタイプだったし。そこからはもう呼び捨てで、「中瀬さんの横幅が大きくすぎて山道からはみ出してるんですけど」「古市、ふーざーけーんなーっ!」などと言いあいながら仲良く散策した。

 それから、時々グループで定期的にご飯を食べに行くようになった。デザート(彼は無類のスイーツ好き)を何人前もほうばりながら、「痩せたい~(ハート)」などと女子高生のようなセリフを口にするので思わず笑ったら、「だって、中瀬さんみたいに太ったら恥ずかしくて生きていけない」「ハゲは仕方ないけど、デブは自己責任だから」などと言い募る。「どうか古市が40歳になったらハゲて太りさらばえていますように」と軽く呪いをかけるのはお約束。

 ある時には堂々と、「ボクはメリットのある人としか付き合わない」「結婚はステージがあがるビッグチャンス。だから、家柄がよくてお金持ちな女性としかしない」などと言い放ち、場を軽く凍りつかせた。

 得意技は「お金持ちのジジババを転がすこと」のようで、「そういうおじいさんおばあさんはスマホは持っててもラインはやってない人が多いから、すぐにピってラインをインストゥールして自分とだけつなげると、2人きりのホットラインができて秘書とか通さなくていいから、すぐにご飯とか連れてってもらって仲良くなれるもん。ふふっ」。コイツ、パパ活、ママ活のプロか! ここは年上から一発説教をせねば。

「あのね、古市クン。そんなメリットとかコスパばかり考えてるとロクな人間にならないよ。人生にはもっと大事なことがだねぇ…(以下省略)」

 古市は興味なさそうに聞き流しながら、「そういえば、最近中瀬さんとデートしてる男ってなにモク?中瀬さんになんの利権を見出してるんだろうね」だと。こんなやつに恋愛相談めいたことをした私が馬鹿だった…。なんかぐやじい。とはいえ、当分、この炎上王子の快進撃が続くんだろうなあ。

 古市よ、物事がメリットやコスパ至上主義でうまくいっている時はキミを遠目で眺めてるけど、いつか損得抜きで好きな相手ができたりで恋に悩んだりしたときは相談にのるからねーっ。ま、一生なさそうだけど。

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中瀬ゆかり

中瀬ゆかり

中瀬ゆかり(なかせ・ゆかり)/和歌山県出身。「新潮」編集部、「新潮45」編集長等を経て、2011年4月より出版部部長。「5時に夢中!」(TOKYO MX)、「とくダネ!」(フジテレビ)、「垣花正 あなたとハッピー!」(ニッポン放送)などに出演中。編集者として、白洲正子、野坂昭如、北杜夫、林真理子、群ようこなどの人気作家を担当。彼らのエッセイに「ペコちゃん」「魔性の女A子」などの名前で登場する名物編集長。最愛の伴侶、 作家の白川道が2015年4月に死去。ボツイチに。

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