中居正広にサプライズを仕掛けたとんねるずの石橋貴明(C)朝日新聞社
中居正広にサプライズを仕掛けたとんねるずの石橋貴明(C)朝日新聞社

 11月7日放送の『UTAGE!秋のサプライズ祭り』(TBS系)は、中居正広がMCを務める3時間の音楽特番。さまざまなアーティストが入れ替わり立ち替わりでパフォーマンスを披露する中で、番組の最後にMCである中居を含む出演者と観客全員に対してサプライズが仕掛けられていた。

【アーティストの新たな一面を引き出したダウンタウン】

 平成のミリオンヒット曲を次々に歌う企画で、本来ならばKis-My-Ft2の横尾渉がとんねるずの『ガラガラヘビがやってくる』を歌うことになっていた。ところが、セットの壁を破って飛び出してきたのは、まさかの石橋貴明本人だった。思わぬ事態に中居もあきれたような表情を浮かべる中で、石橋は自身の持ち歌を最後まで歌いきり、中居と肩を組んでいた。石橋はこのサプライズを仕掛けるために、5時間前からスタジオに入って隠れていたのだという。

 石橋と中居は1996年から2010年まで放送されていた音楽番組『うたばん』(TBS系)でMCを務めていた。『うたばん』コンビが久々の共演を果たしたことについてはネット上でも大きな反響があり、中には「『うたばん』を復活させてほしい」という期待の声もあった。

 14年も続いた『うたばん』は熱烈なファンが大勢いる人気番組だったため、これだけの反響があったのだろう。これほど復活の声が高まった裏には、かつての『うたばん』のようなトーク主体の音楽番組が減っているという現状がある。

 現在、さまざまな形の音楽番組が各局で放送されているが、MCとアーティストのトークを主軸にするような番組はきわめて少ない。スタジオトークがそれなりにあるのはいずれも深夜番組の『シブヤノオト』(NHK)、『バズリズム02』(日本テレビ系)ぐらいである。

 トーク主体の音楽番組の先駆けとなったのは、1994年に始まった『HEY!HEY!HEY!MUSIC CHAMP』(フジテレビ系)だろう。この番組ではダウンタウンがMCを務めていた。当時のダウンタウンには音楽好きというイメージは全くなかったため、このキャスティングは斬新だった。

 それまでの音楽番組では、司会者はアーティストの世界観を尊重して、気を使いながら話を聞くのが通例だった。ところが、ダウンタウンの2人は、アーティストに対して一切臆することなく、ズケズケと斬り込んでいった。そういうやり方でアーティストの素顔を見せたり、本音を引き出したりした。いわば、音楽の世界にいるアーティストを、バラエティの世界に無理矢理引きずり出したのである。そうやってダウンタウンに新たな一面を引き出されて人気を獲得するアーティストが大勢いた。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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