記者会見で笑顔を見せる京大の本庶佑特別教授(c)朝日新聞社
記者会見で笑顔を見せる京大の本庶佑特別教授(c)朝日新聞社

 2018年ノーベル医学生理学賞には、京都大特別教授の本庶佑(ほんじょ・たすく)氏に贈られることが決まった。日本人が自然科学系分野でノーベル賞を受賞するのは23人目となる(米国籍を含む)。そこで、これまでのノーベル賞学者(物理学賞、化学賞、医学生理学賞)について出身校、専任教員としての所属大学について調べてみた。

【関西で医学部に強い高校はここだ!】

■ノーベル賞学者の出身大学(学部)。帝国大学など旧制を含む
(1)京都大 7人
(2)東京大 5人
(3)名古屋大 3人
1人=北海道大、東北大、埼玉大、東京工業大、山梨大、神戸大、徳島大、長崎大

■ノーベル賞学者の出身大学(大学院研究科)
(1)京都大 4人
(2)東京大 3人、名古屋大 3人
1人=北海道大、東京工業大、東京理科大、大阪市立大、徳島大

■ノーベル賞学者が専任教員の大学(助教授<現在は准教授>以上で学長を含む。特任、特命、客員の教員などは含まない)
(1)東京大 5人、京都大 5人
(3)名古屋大 3人
2人=筑波大、名城大、大阪大
1人=北海道大、弘前大、北里大、芝浦工業大、総合研究大学院大、東海大、横浜薬科大、京都工芸繊維大、京都産業大、大阪市立大、岡山理科大、倉敷芸術科学大
※東京教育大は筑波大に含めた

 学部卒、大学院研究科出身、専任教員の「3冠」の京都大。その強さの理由について、同大学総長の山極寿一氏の発言から知ることができる。

「教授を『先生』と呼ばせない。京都大学にはこんな伝統がある。指導教授から教えを受けるのではない、超えるべき存在である。学生は教授と対等に渡り合わなければいけない。教授の学説をそのまま信じてはいけない。教授の研究領域を踏み外して、新しい領域を開拓してこそ、新しい研究が生まれるからだ。」(『大学ランキング 2018』朝日新聞出版)

 名古屋大も目立っている。出身者や教員経験者など同大学に関係するノーベル賞学者は野依良治、小林誠、益川敏英、下村脩、赤崎勇、天野浩の6氏である。

 名古屋大総長の松尾清一氏は次のように話す。

「古いしきたりやしがらみにとらわれず、教員同士、教員と学生の関係もとてもフラットである。ベテラン教員のもと、若い人たちが自由にのびのびと研究に打ち込み、議論する文化が生まれ、今日まで脈々と受け継がれている」(『大学ランキング 2016』)

 学部卒業は、すべて国立大学である。大学院出身となると公立の大阪市立大、私立の東京理科大がようやく顔を出した。

 そして、ノーベル賞学者が専任教員として所属した大学である。北里大、東海大、京都産業大、岡山理科大、倉敷芸術科学大などは、ノーベル賞学者を招聘していたということについて高く評価されていい。この点、加計学園(岡山理科大)は立派だった。

 学長経験者は朝永振一郎氏の東京教育大(現・筑波大)。江崎玲於奈氏の筑波大、芝浦工業大、横浜薬科大。

■ノーベル賞学者の出身高校(旧制中学は継承する高校、卒業した高校を集計。◎は私立、◯は国立、無印は公立)

<北海道、東北> 苫小牧東(北海道)

<関東> 川越(埼玉)、日比谷(東京)、湘南、横須賀(以上、神奈川)

<北陸、甲信越> 富山中部(富山)、藤島(福井)、韮崎(山梨)

<東海> 飛騨高山(岐阜)、浜松西(静岡)、明和、名古屋市立向陽(以上、愛知)

<関西> 洛北、◎同志社(以上、京都)、◯大阪教育大学附属高天王寺校舎、今宮(以上、大阪)、◎灘(兵庫)

<中国、四国> 宇部(山口)、大洲(愛媛)

<九州> 福岡(福岡)、諫早(長崎)、甲南(鹿児島)

 京都府立洛北高校(府立京都第一中学校)が2人。湯川秀樹氏、朝永振一郎氏である。ほかはすべて1人だけだ。歴代のノーベル賞学者らが高校(旧制中学を含む)に通っていたのは、1910年代から80年代。長きにわたって公立高校が圧倒的に強かった。平成から次の時代に変わろうとするいま、そろそろ開成、麻布、武蔵からノーベル賞受賞者が出てきてもおかしくないだろう。

 朝日新聞出版『大学ランキング』では94年の創刊以来、ノーベル賞学者に多く登場してもらった。江崎玲於奈、白川英樹、小柴昌俊、鈴木章、益川敏英、山中伸弥の6氏である。彼らの珠玉のひとことを紹介しよう(カッコ内は『大学ランキング』の◯◯年版)。

●江崎玲於奈 「大学が学生に対して、どれくらい意欲を持たせ、能力を引き出す手助けができ、たくさんの付加価値をつけられたかのランキングがあってもいい」(1998年版)

●小柴昌俊 「科学には未知の世界を解明し、人類に新たな知識をもたらすという重要な役割があります」(2004年版)

●白川英樹 「研究者が社会還元を意識するようになることが、大学を開かれたものにするための第一歩だと思います」(2004年版)

●山中伸弥 「研究環境については、自分の持ち場が、一つのフロアで密室に近い状態よりも、いつでも声をかけられるように区切られる壁が少ないほうが理想的である。すぐにディスカッションができて、アイデアが浮かびやすいからだ」(2009年版。山中氏がノーベル賞受賞以前)

●鈴木章 「研究者養成において、大学院生などをあまり管理しないで、自由に実験などに取り組んでもらったほうがいいと考えている」(2012年版)

●益川敏英 「若い研究者に望むのは、もっと覇気を持つことだ。部屋に閉じこもるのではなく、研究テーマを仲間と朝まで語り合うほど、熱くなってほしい。そこから新しいアイデアがどんどん出てきて、夢やロマンを抱ける」(2012年版)

(文/小林哲夫・教育ジャーナリスト)

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