そもそも、西武の盗塁はほとんどグリーンライトだ。選手の判断にゆだねられていて、スタートが上手く切れたら走っていい。盗塁の失敗を許容されているところがあり、「あの場面は走るべきではなかった」という最悪のケースを除いては、どんな失敗も指揮官が咎めることはないのである。
そのなかで源田は次打者の浅村と相手投手を見ている。
例えば、シーズン終盤、天王山の第一ラウンドと位置付けられた9月15日の対ソフトバンク戦ではこんなシーンがあった。
5回裏、1死・1、3塁、三塁に金子侑、一塁に源田がいた場面である。スコアは3-2で西武がリードしていた。
この局面で考えられたのは源田のスチール、あるいは、エンドランを仕掛けて浅村が右方向を狙うという作戦だ。盗塁が成功すれば、チャンスは拡大するし、エンドランなら、最低でも1点を追加することができる。
5回表に1点差に詰め寄られたところだから、どうしても1点が欲しい場面ではあった。
しかし、ここで西武がとった作戦は“ノーサイン”だ。
いや、正確にいえば何も動かなかったといった方がいいかもしれない。
結果は、インコースやや中寄りの球を浅村が強振して左翼スタンドに運ぶ3点本塁打となったのだ。
源田の回想だ。
「ここはほとんど走る気はなかったですね。カウントで(相手の)千賀投手がフォークを投げてきそうだという予測が付けられそうなときには行こうかなとは思いましたけど、最初から走る気はなかったです」
ソフトバンクの捕手・甲斐拓也は、このとき、インコースに構えているから、バッテリーの意図としては詰まらせての併殺打か、浅村の右打ちを防ごうというものであっただろう。「ボールとして最悪の球」と千賀が試合後に振り返っていたように、意図より中に入ってしまって浅村の餌食となったが、「インコースのストレート」を要求した背景に何があったかは、源田の存在ということになろう。
仕掛けてくる走者がいることでバッテリーの配球が偏った。
それを見逃さず、浅村が仕留めたということである。目には見えない、源田の足を使った戦術的勝利といえた。
もちろん、こんなシーンばかりではないが、盗塁には様々な副産物がある。