難治がんの記者が荒唐無稽な「物語」で問いかける社会の本気度 (3/4) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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難治がんの記者が荒唐無稽な「物語」で問いかける社会の本気度

連載「書かずに死ねるか――「難治がん」と闘う記者」

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野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、翌月手術。現在は抗がん剤治療を受けるなど、闘病中

野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、翌月手術。現在は抗がん剤治療を受けるなど、闘病中

※イメージ写真(撮影/写真部・松永卓也)

※イメージ写真(撮影/写真部・松永卓也)

 また別の1人はテーブルのお皿を何枚か重ねて、自分のタブレットを差し出した。党のサイトにはこうあった。

「日本国籍であること」「前年まで2年連続で年3千5百円の党費を納めていること」。読み上げた女性は付け加えた。「合計7千円って……思ったよりも簡単じゃない?」

 4人が一言ずつしゃべっていくうちに、テーブルには熱気が満ちていた。まだしゃべっていなかった1人は周りが見つめるなか、迷いない口調で「やるべし!」と言った。

 作戦名はそのまま「林田総理以外に投票するために、アルバイトして党員になろう」作戦。基本方針ははやばやと決まった。

 ●同じ場所でデモを続ける意味は大きい。作戦中も定期的に続ける。
 ●政権に動きを察知されないよう、できるだけ短期間で切り上げる。
 ●身内から漏れないよう、アルバイトはこれまでデモで家をあけてきた時間帯に重ねる

 聞きながら「風間」は思い出した。そういえばあの晩も、声を上げている人たちはいた。みんなを代表しなきゃと大声を出していたんだ。

 5人の作戦で大切なのは賛同者を増やすことだ。自分のぶんを稼ぎ終えてからが、ちょっとした冒険譚だった、という。

「風間」は予定通り小1時間で取材を打ち切った。「やるべし」と言った女性が見送ってくれた。「今日はほかの2人はお仕事でお忙しかったのですか」という何げない問いに返ってきたのは、意外な答えだった。「いえ、2人ともやめたんです」

 1人は、党の集会や選挙活動への誘いを断るのが気まずくなり、時々は顔を出すようになった。党の主張に触れ、熱心な関係者と顔見知りになり、例の居酒屋で打ち明けたそうだ。

「野党のほうがだらしなく見えてきた。代表選でも今の総理に投票しようと思っているのに、みんなや自分の気持ちを裏切れない」

 もう1人は「しょせん他人頼みの博打」と言い残し、離れていったという。

 たとえば、誰かが代表選に出ようとしても、推薦人を集められなければ立候補できない。候補者1人ならば首相選びに関われない。「支持していない政党を金銭的に支えることは我慢するとしましょう。ただ、首相に正義を求めているのに、私たちがやっているのは正義なのか。小学生の娘と話していて、ふとそんなことを思ってしまったんです」


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