今回のアジア競技大会では、予想していたほど気温も上がらず、東京の方が暑かったぐらいだが、銀メダルを獲得した石井美樹と村上めぐみは「効果は高いと思います。(タイムアウトは30秒だが)足が冷え冷えするほどですし、その後、コートに戻っても効果が長く続いているように感じます」と話している。

 もうひとつはアイススラリーの導入。スラリーとは液体と固体粒子の混合物のことであり、シャーベット状の飲料は、水よりも体を冷やす効果が高く、氷よりも効率よく体内に取り入ることができる。臓器などのある体の中心の温度は深部体温と呼ばれるが、それが上昇すると、人体は毛細血管への血流量を増やし、放熱して冷やそうとする。そのため脳や筋肉へ血液が回らなくなり、運動機能が低下、判断力も鈍くなる。アイススラリーはその深部体温を下げるのに有効な飲料と言われている。

 ビーチバレーチームではJISSの協力を得て、7月の代表合宿でアイススラリーの実証テストを行い、効果を確認していた。ただし、アジア競技大会では、競技場でアイススラリーを簡易的につくることができず、投入は見送ってしまう。

 試合の2週間ほど前から暑い地域に入り、体を慣れさせる「暑熱順化」も今回、ビーチバレーチームは行わなかった。常に高温の場所で試合、練習を重ねており、特別必要性もなかったということだ。ただ「暑熱順化」は陸上チームをはじめ各競技団体が取り入れ結果に繋げており、スポーツクライミングで金メダルをとった野口啓代も、あえて事前合宿を猛暑の中で行ったと話している。

 競技により、また選手によっても有効な暑熱対策は違うが、今回のアジア競技大会ではさまざまな試みが行われ、東京へ向けJISSが中心となりフィードバックも進む。ビーチバレーチームでは、今後タイムアウト時に選手の全身をくるむようなクールダウンコートや、今回、テニスチームが導入していたアイスベストを改良し、プレー時も着られるアイススーツの開発も考えているという。

 本来、スポーツをプレーするのに向かない日程を組まれた東京が、インドネシアでのアジア競技大会以上の酷暑五輪になる可能性は避けられない。しかし、それでも選手のパフォーマンスを少しでも上げるため、さまざまな対策が提案、実証され改良されている。あと2年で「暑熱対策」がどこまで進むのか、これも注目である。(文・小崎仁久)