学校へ行きたくないと言えなかった理由はかすみさんが書いていたように「学校へ行けないことが悪いことだ」と思っていたからです。自ら進んで罪を犯すことができない、親を困らせたくないというのが当事者心理です。

 また「行きたくない」と言えなかったのは「理由が答えられないから」とも指摘していました。かすみちゃんのように「理由がわからない」という不登校の子どもも多くいます。これまでの取材では、背景としては4つのパターンがありました。

(1)純粋に理由が見当たらないため

(2)苦しすぎる経験ゆえに当時の記憶を失ったため

(3)理由が重層的で言葉にできないため

(4)深刻な原因だと思えないため

 最近、10代からよく聞くのが「深刻な原因だと思えない」というパターンです。「行きたくないほどの理由じゃないんだけれど……」という語り出しで、いじめや体罰を受けていたり、病気になったりした話を聞いてきました。私が聞くかぎり、みんな深く傷つき、深刻な状態を生き抜いてきた子どもたちばかりでした。

 しかし彼ら自身は「深刻ではない」と思っているため、他人から不登校の理由を聞かれても「わからない」と答えていたそうです。

 このように「わからない」という言葉のうらには、その人なりの背景があります。

 今回、くり返し伝えたいのは、学校へ行きたくない子どもが一番言葉にしづらいのが「行きたくない」という一言だということ。そして、たとえ「行きたくない」と言えたとしても、その理由を説明できない子どもも多いということです。

 周囲はつい明確なSOSを待ってしまいますが、本人にすればSOSは出しづらいものです。

 言葉にしなくても態度や表情からSOSを受け取ることができます。「言葉にしないなのは甘えだ」と突き放さず、いま態度に出していることが、その子なりの精いっぱいのSOSだと受け止め、本人の気持ちを大事にしてほしいと願っています。(文/石井志昂)

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石井志昂

石井志昂

石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた

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