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「寵児」イーロン・マスクの挫折 市場は常に正しいのか

連載「経済プリズム」

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安井孝之dot.#安井孝之
テスラのイーロン・マスク最高経営責任者 (c)朝日新聞社

テスラのイーロン・マスク最高経営責任者 (c)朝日新聞社

Gemba Lab代表 安井孝之(やすい・たかゆき)
/1957年生まれ。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京、大阪の経済部で経済記事を書き、2005年に企業経営・経済政策担当の編集委員。17年に朝日新聞社を退職、Gemba Lab株式会社を設立。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。

Gemba Lab代表 安井孝之(やすい・たかゆき) /1957年生まれ。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京、大阪の経済部で経済記事を書き、2005年に企業経営・経済政策担当の編集委員。17年に朝日新聞社を退職、Gemba Lab株式会社を設立。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。

 マスク氏の心境を勝手に想像すると、「四半期ごとに経営をチェックされ、クルマがつくれないじゃないかと批判されるのはもう嫌だ。バカな市場とはもう付き合いたくない。株を非公開化して、投資家にやいのやいのと言われずに経営したい」というところか。それが7日にツイートされたのだ。

 これまでマスク氏は世界を変えるベンチャー経営者としてもてはやされ、彼がEVの未来を語れば、メディアもアナリストも「EVシフトは加速する。HV(ハイブリッド車)もFCV(燃料電池車)ももう終わり。EVに駆逐される」と煽った。その手のひら返しのような最近の反応にマスク氏の精神状態も正常さをいささか失ってしまう事態となっていた。

「100年に一度の大改革」と言われる自動車業界の火付け役はまさにマスク氏だった。大改革の旗頭として市場からの期待感を一身に集め、テスラの時価総額は米国最大の自動車メーカー、ゼネラル・モーターズ(GM)の時価総額をも上回った。まさに市場の評価を梃にして成長を続けたのがテスラだったのだ。

 それなのにマスク氏は市場から逃げようとした。だが投資家らの強い反発から逃げきれず、24日には株式の非公開化の計画を撤回せざるを得なかった。

 私は昨年来のEVブームにやや懐疑的だった。昨年9月にはプレジデントオンラインで「2040年までに“全車を電動化”は絶対無理」とモータージャーナリストの清水和夫氏と対談し、過熱気味のEVブームに疑問を投げかけた。根底には市場で言われているほどEVをつくるのは簡単ではないという認識があった。多くのメディアや識者たちは「EVになると部品点数も減り、誰でもクルマがつくれるようになる」と強調していたが、それは現実を冷静に見つめていない言説だったと思う。

 確かにパソコンやスマホなどデジタル商品は主要部品を組み合わせれば、そこそこの製品がつくれるのは事実である。しかしクルマは人を乗せ、1トン、2トンの重さの物体を安全に時速100キロ以上で走り続ける商品なのだ。しかもそれを量産化するとなると、生産ラインの質はパソコンをつくるラインに比べると格段に高い精度と信頼性がなくてはならない。10年経ってもテスラがEVを大量生産できないとは思わないが、市場やマスク氏が考えていたほど短時間に実現できる「未来」があるとも思えないのだ。



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