――ロックピアニストを目指そうとは?



 思わなかったですね。ロックキーボーディストってバンドの端っこにいなければいけないんです。僕は真ん中にいたかった(笑)。5歳の頃から「明るい曲を暗く変えたら面白いかな?」と思って弾いていました。一番身近で、一番大きなおもちゃがピアノ。その時面白いなと思ってしていたことが仕事になるなんて、思っていなかったですよ。自分の中ではジャンルの垣根がないんです。

――HIROSHIさんの演奏スタイル(右手でポップス、左手でクラシック)は、次の展開がまったく読めないです。

 スリルやワクワクを感じられるようにアレンジしたいなと思っています。昔ある方に、「さっきの演奏、HIROSHIくんが心の中でベロだしているんだろうなと思った」と言われたことがあります。「こうくると思ったでしょう?」って意外性を楽しんでもらいたい。ピアノの演奏会というよりは、ショーやエンターテインメントでありたいと思っています。舞台を歩きだした瞬間から、次に弾く曲の雰囲気を醸し出したい。

――即興リクエストも取られていて、演奏以外でもお客さんとの一体感があります。

 リクエストコーナーでは僕自身がマイクを持って、客席を歩きます。歌手の方は客席で歌ったりするじゃないですか。それが羨ましいんです。ピアノは降ろすわけにはいかないし、何とかお客様の中に入っていく方法を考えた結果、こうなりました。演奏に比べれば時間は短いですが、トークにも力を入れています。モットーは大学教授のような楽曲解説はしないこと。たとえば、ショパンの『英雄ポロネーズ』を弾くときは曲の中間部で客席をぐるっと見回します。

――何を見ているんですか?

 寝ている人がいないかのチェックをするんです(笑)。そうすると皆さん笑ってくれて、ウケはばっちりなわけです。その後、「皆さんはクラシックだと思って聴いているけど、ショパンさんにとっては新作です。良い曲だから200年近く残っている。だから、クラシックのことを『咳払いをしてはいけない音楽』という風に思わなくてもいい」と話したり。

――200年残る音楽ってすごいですよね。最近はヒットチャートが崩壊しているという声もあります。

 クラシックと一緒に弾くポップスも誰もが知っている曲じゃないと意味がないじゃないですか。新作を考えようと思った時、この1年で全国民が知っている曲がないような気がしたんです。でも、「ようやくヒットが出た!」と思ったらメロディがない曲でした。ピコ太郎さん(笑)。
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6人のSMAPと共演していても不安だった頃も