ビブリオシアター1階「NOAH33」エリア。「脳と心と体の関係」「医療と健康と薬」など、医学部や薬学部を有する総合大学ならではのテーマ。学生ボランティアによる「黒板推薦文」を読むのも楽しい。施設の監修は編集工学研究所所長の松岡正剛氏(撮影/杉澤誠記)
ビブリオシアター1階「NOAH33」エリア。「脳と心と体の関係」「医療と健康と薬」など、医学部や薬学部を有する総合大学ならではのテーマ。学生ボランティアによる「黒板推薦文」を読むのも楽しい。施設の監修は編集工学研究所所長の松岡正剛氏(撮影/杉澤誠記)
ビブリオシアター2階「DONDEN」エリア。「近大生のためのハローワーク」に隣接するのは就活を支援するキャリアセンター(写真奥)(撮影/杉澤誠記)
ビブリオシアター2階「DONDEN」エリア。「近大生のためのハローワーク」に隣接するのは就活を支援するキャリアセンター(写真奥)(撮影/杉澤誠記)
4号館はアメニティフィールド。海外のニュースが英語で流れる「CNN Café」(写真)や国内大学初出店の「ALL DAY COFFEE」など、雰囲気抜群のくつろぎスペースを設置(撮影/杉澤誠記)
4号館はアメニティフィールド。海外のニュースが英語で流れる「CNN Café」(写真)や国内大学初出店の「ALL DAY COFFEE」など、雰囲気抜群のくつろぎスペースを設置(撮影/杉澤誠記)
近畿大学アカデミックシアター事務室室長・岡友美子さん(撮影/杉澤誠記)
近畿大学アカデミックシアター事務室室長・岡友美子さん(撮影/杉澤誠記)
YouTubeで公開されているアカデミックシアターのPR動画。マイクロドローンを駆使して館内の魅力を約150人の学生たちが躍動感いっぱいに伝えている。動画はこちらをクリック
YouTubeで公開されているアカデミックシアターのPR動画。マイクロドローンを駆使して館内の魅力を約150人の学生たちが躍動感いっぱいに伝えている。動画はこちらをクリック

 2017年春にオープンした近畿大学の複合施設「アカデミックシアター」。語学学習施設(1号館)や社会に開かれた空間(2号館)、24時間利用できる自習室(3号館)など、五つの建物が低層階でつながっている。その中心にあるのが「ビブリオシアター」と名づけられた図書スペース(5号館)だ。「就職力で選ぶ大学2019」の巻頭グラビア特集「進化する大学図書館」では、<奇想天外な「未知との遭遇」を体験>としてこのビブリオシアターを紹介している。誌面で伝えきれなかった同施設の狙いや今後の展望を、事務室室長の岡友美子さんに聞いてみた。

【アカデミックシアターの動画はこちらから】

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 近鉄大阪線の長瀬駅を出るとすぐに「まなびや通り」の看板が目に飛び込んでくる。ラーメン店や居酒屋、スイーツショップが立ち並ぶ道は学生街の風情たっぷり。8分ほど歩くと、正面突き当たりに重厚なレンガ造りの近畿大東大阪キャンパスが見えてきた。アーチ状の西門をくぐり抜けて右方面に進めばアカデミックシアターに到着だ。

 建物はガラスと木材を組み合わせて開放感とぬくもりを両立、国立の博物館や美術館のように世界に通用するパブリックなデザイン。夜間は照明で幻想的な雰囲気を醸し出す。

「日当たりが良すぎて、夏場の温度調整が大変でした」と思わぬ誤算を教えてくれた岡室長。実験棟や食堂の2期工事を含める「超近大プロジェクト」として、総事業費500億円を投じた。そもそも、どうしてこのような施設をつくったのだろうか。

「学部を超えて学生が集まり、新しい価値を創造し発信できるような場が必要だと考えました。グローバルかつ多様性のある学びの拠点として、他大学に類を見ないユニークな空間だと思います」(岡室長)

 もともと東大阪キャンパスには学術情報の拠点である中央図書館が存在している。約150万冊の図書、約1万3000種類の雑誌を所蔵。伝統的な図書館のスタイルで、私語厳禁な空気が漂う“静”の空間だ。対してビブリオシアターは“動”そのもので、蔵書は約7万冊と中央図書館と比べると少ないが、学生たちはACT(アクト)と名づけられた42あるガラス張りの個室で自由に語らい、思い思いのスタイルで本を広げている。

「1階は『言葉と文学の方舟』や『デザインが秘める魅力』など、33の文理融合インデックス別に約3万冊の図書を構成するNOAH(ノア)33、2階はマンガを中心に新書や文庫を約4万冊集めたDONDEN(ドンデン)として、知のどんでん返しを狙いました」(同)

 遊び心のあるネーミングでシャレが利いている。学生にとって身近なマンガから想像力を刺激して新書や文庫で知識を吸収させるという、まさに学びの逆転発想。「恋する女の生きる道」や「異形との出会い」など、ユーモアたっぷりの32のテーマが好奇心を引きつける。図書館司書がワクワクしながら選書している姿が思い浮かぶようだ。

「就活の時期は『近大生のためのハローワーク』や『仕事術と処世術』などのテーマにも学生が集まりますね」と岡室長が案内してくれた。

 棚には仕事に特化したタイトルがびっしり。『課長 島耕作』シリーズを手に取りながらふと奥のフロアに視線を移すと、連結する2号館のキャリアセンターが見える。もちろんこれは偶然ではない。就活本コーナーのある大学図書館は少なくないが、ここまで「学び」と「就活」を直結させたケースは見たことがない。思わず納得させられる一歩進んだ取り組みが、大学の勢いを物語っている。

「企業人を招いたワークショップなどのイベントを頻繁に開催しています。今後は本に触れる機会づくりや価値創造の発信基地としてだけでなく、卒業後も視野に入れた将来に向けての“場づくり”を提供するスペースになればと思います」(同)

 すでに学生が主体となってビジネス講座を開くなど、自主的な活動も広がっているという。施設だけ整えても、利用する学生のマインドが低ければ宝の持ち腐れ。近畿大のアカデミックシアターは、学生のニーズを的確にくみ取り、モチベーションを上手に高めることに成功したようだ。

 8月25日(土)と26日(日)には、東大阪キャンパスでオープンキャンパスが開催される。昨年の参加者数が西日本で1位(『大学ランキング2019』調べ)という近畿大。アカデミックシアターを舞台にした謎解きイベントや学生が案内するキャンパスツアー、近大マグロの試食会など、今年も盛りだくさんの内容で来場者を大いに納得させることだろう。

(文/杉澤誠記・アエラムック教育編集部)