2014年の鹿屋中央-市和歌山。延長12回でサヨナラ負けし、肩を落とす市和歌山の選手たち(c)朝日新聞社
2014年の鹿屋中央-市和歌山。延長12回でサヨナラ負けし、肩を落とす市和歌山の選手たち(c)朝日新聞社

 記念すべき第100回全国高校野球選手権記念大会がついに開幕し、今年もどんなドラマが生まれるか大いに楽しみだが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「思い出甲子園 真夏の高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、夏の選手権大会で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「明暗を分けた判断ミス編」だ。

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 三塁走者が中前安打をダイレクトキャッチと見間違えて引き返したために“幻の同点タイムリー”となったのが、1996年の2回戦、新野vs明徳義塾。

 3対3の9回に1点を勝ち越された明徳義塾はその裏、先頭の吉川昌宏(元ヤクルト)が四球で出塁。送りバントで二進後、高見聡の右前安打で1死一、三塁とチャンスを広げた。

 ここで3番・梅山和希が中前に痛烈なライナーを放つ。センター・福良徹(元広島)がスライディングキャッチを試みたが、一歩及ばず、打球はショートバウンドでグラブに収まった。

 誰もが「これで同点」と確信したが、次の瞬間、スタンドの観衆は信じられないような光景に我が目を疑った。

 すでに飛び出していた三塁走者の吉川がダイレクトキャッチと勘違いして、慌てて三塁に戻ったため、ホームに還れなくなってしまったのだ。

「センターが転びながらグラブを上げたので、捕ったのかと思いました」(吉川)

 状況を見ながら本塁を突く手もあっただけに、中途半端に飛び出していたことがアダとなった。

 馬淵史郎監督は「(投手の)吉川にもっと走塁の練習をさせておけば」と悔やんだが、後の祭りだった。

 一方、ラッキーとしか言いようのないプレーで同点を免れた新野は、なおも1死満塁のピンチだったが、5回途中からリリーフした小品貴志が6球中5球まで直球という強気の投球で4番・中平公二を二直、5番・松岡弘晃を遊飛に打ち取り、4対3で逃げ切った。

 徳島県大会準決勝で5点差、決勝で3点差を終盤にひっくり返した“ミラクル新野”は、この日も0対3から7回に追いつき、9回に逆転と甲子園でも旋風を巻き起こした。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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