一打サヨナラのピンチで「バックホームか」「併殺か」という究極の選択を迫られた場面で、状況的にあり得ない“第3の選択”が命取りになったのが、2014年の1回戦、市和歌山vs鹿屋中央。

 1対1の同点で迎えた延長12回裏、甲子園初出場の鹿屋中央は三ゴロエラーと犠打で1死二塁とした後、8番・山下亮太の右前安打で一、三塁とチャンスを広げた。

 次打者・米沢佑弥の打球は二塁へのゴロ。中間守備をとっていた市和歌山はバックホームで決勝点を阻止するか、4-6-3の併殺か、どちらにも対応できるはずだった。

 ところが、「球場全体の声が敵のように向かってきて、頭がパニックになった」というセカンド・山根翔希は、どちらの選択肢でもない一塁に送球してしまった。この間に三塁走者・大田豪が生還。まさかのサヨナラ劇となった。

 守備の巧さには定評のある名手の判断ミスは、甲子園の魔物の仕業としか言いようがない。

 また、一塁でアウトになった米沢には当初「二ゴロ」が記録されたが、「(サヨナラゲームで)一塁フォースアウトは記録上、意味がない」(大会本部)という理由で、内野安打に訂正された。米沢にとっては、記念すべき甲子園初安打で、敗れた2回戦の星稜戦では打席に立っていないため、結果的にこれが甲子園で唯一の安打となった。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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