2011年の広島県大会準決勝、広島新庄vs崇徳は激しい試合となった (c)朝日新聞社
2011年の広島県大会準決勝、広島新庄vs崇徳は激しい試合となった (c)朝日新聞社

 今年も各地で地方予選が始まり、夢の甲子園出場へ向け球児たちが熱い戦いを続けているが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「思い出甲子園 真夏の高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、夏の選手権大会の予選で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「うっかりミス編」だ。

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 2人の打者がメンバー表と入れ替わりの打順で打席に立ったばかりでなく、その後、同じ打者が2度続けて打つという珍事が起きたのが、1996年の茨城県大会2回戦、常総学院vs石下。

 1点を追う石下は2回1死、6番・杉山勇の打順であるにもかかわらず、7番・黒川和也が打席に入った。黒川は三振に倒れたが、次打者としてなぜか打順を飛ばされた杉山が打席に入った。6番と7番が入れ替わっているのに、常総側からアピールがなかったため、プレー続行。杉山はアウトになって、この回の攻撃が終了した。

 そして、0対4で迎えた5回、石下の攻撃は6番・杉山から始まるはずだったのに、再び黒川が打席に立った。黒川が遊飛に倒れ、1死になったところで、「打順が間違っている」と常総側がアピール。この結果、正規の7番打者から試合再開となり、黒川がこの回2度目の打席で右飛に倒れた。1人で2度続けてアウトになった形だが、前の打席の遊飛は、打ってもいないのに杉山に記録されるという珍事に。

 それでは、なぜこんなことが起きたのか? 鈴木正良監督が提出したメンバー表と異なる打順を2人に誤って伝えたのが真相だった。

 実は、常総ベンチも2回の時点で間違いに気づいていたのだが、「ヒットを打ったらアピールしようとしていたけど、そのままアウトになったからいいや」(大峰真澄部長)と抗議するタイミングを逸していたのだ。

 しかし、5回の2打席目も打順を間違えていたことから、今度はすぐにアピールしたという次第。

 試合は常総が6対0で快勝したが、歴戦の名将・木内幸男監督も「同じバッターが2度続けて打つ野球なんて、聞いたことあんめえ」と苦笑するばかりだった。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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勘違いで致命的なミス采配