ところが、阪垣が次打者を打ち取って2死三塁になると、松尾がこの回2度目のマウンドに戻り、阪垣は再びレフトへ。この交代がルール上問題になった。

 実は、高校野球特別規則では、「投手は同一イニングで2度目の投手に戻れば、それ以降は他の守備位置につくことはできない」と定められており、松尾が2度目の投手に戻った以上、阪垣はベンチに下がらなければいけないのだ。

 だが、崇徳ベンチだけではなく、審判までルールを間違え、投手交代と阪垣のレフトへの守備位置変更を認めてしまったことから、話がおかしくなった。

 さらに話をややこしくしたのは、崇徳がこの時点でベンチ入り選手20人を使い切っており、阪垣に代わる選手がいなかったこと。この場合、厳密にルールを適用すれば、崇徳には没収試合が宣告され、0対9で負けになる。

 これらのことを広島新庄・迫田守昭監督が抗議し、没収試合を適用するかどうかの論議も含めて、試合は1時間19分も中断した。

 結局、「厳しい方向(没収試合)よりは、元の状態に戻して再開しよう」という県高野連の判断により、「投手・阪垣&レフト・松尾」で試合再開。最悪の場合、没収試合も覚悟していたのに、救済された崇徳はラッキーだったが、勝利の女神まで味方につけることはできなかった。再開直後の2死三塁から決勝タイムリーを許し、4対5で敗れた。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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