■先制点を奪われた日本代表は…

 それでもポーランドの最下位は変わらない。しかし日本にとっては悪夢の1点でもあった。同時間に行われているコロンビア対セネガルは0-0のまま。この時点で首位は勝ち点5のセネガル。日本はコロンビアと同勝ち点の4だが、得失点差で3位に転落し、グループステージ敗退となる。

 最低でも同点に追いつかないと勝ち点で上回れない。西野監督は宇佐美貴史に代え、乾貴士を投入して反撃に転じた。ところが後半29分、乾が相手に倒されたものの反則を取ってもらえずカウンターを受け、ロベルト・レバンドフスキが決定機を迎えた次の瞬間、他会場でコロンビアが先制点を決めた。これでコロンビアは勝ち点6で初めて首位に浮上。日本はセネガルと同勝ち点、同得失点差ながら、警告数で2位に浮上したのである。

 色めき立つ記者席。それは日本ベンチも同じだった。2人の選手交代で攻撃の圧力を強めるポーランドに対し、日本は後半37分、武藤に代えて長谷部誠を投入する。メッセージは「このままでいい。余計なファウルはするな」というもので、長谷部をアンカーに置く4-1-4-1で守備を固めた。

 ポーランドが追加点を奪うか、セネガルが同点ゴールを奪えば西野監督のプランは雲散霧消する。残り8分、西野監督は「厳しい選択だった。“万が一”という状況はこのピッチでも考えられ、他会場でも“万が一”はある。選択したのは“万が一”が起こらないこと。これは他力の選択」と苦渋の決断だったことを明かした。

 それもそうだろう。西野監督といえば、自他ともに認めるように「自分のスタイルは攻撃的というか、選手には強い選択を選べとためらわずに言う。高いポジションを選び、プレッシングしてボールを保持してゴールに迫る」サッカーが真骨頂だ。

 それがプライドをかなぐり捨てて、運を天に任せるようなギャンブルに出た。もしもセネガルが1点を返し(アディショナルタイムは4分)、日本がグループステージで敗退したら、西野監督は批判の嵐にさらされたことだろう。それでもあえて、指揮官は“他力本願”の選択をせざるを得なかった。

 試合終盤は両チーム共にボールを回すことで時間稼ぎをしたため、日本のサポーター以外、地元ロシアはもちろんのこと、ポーランドのサポーターからも盛大なブーイングを浴びた。それでも“名を捨てて実を得た”格好の日本。西野監督は「ワールドカップで勝ち点を取る難しさ」を指摘しつつ、自身が指揮を執った1996年のアトランタオリンピックで勝ち点6を得てもグループリーグで敗退した経験を踏まえ、今回のワールドカップでは勝ち点4でベスト16に進んだことを、「そこだけにフォーカスしたい」と自らに言い聞かせるように話していた。

 ワールドカップにおける日本のベスト16進出は今大会で3回目だが、過去2回は全力を出し尽くした延長にベスト16があったもの。しかし西野監督は、「そうではない状態に持っていきたい。疲弊しているのは分かるが、満足せず、今までの大会と違う状態で臨むんだと、これからの3日間の練習で選手に臨ませたい」とも話した。

 西野監督にとってワールドカップでのベスト16は目標だったことは間違いないが、プライドを傷つけられたベスト16でもあったようだ。そのリベンジを違う形で表現するあたり、やはり西野監督の性格は昔と少しも変わらないようだ。(サッカージャーナリスト・六川亨)