意見が対立したとき「どちらが正しいか」を判断基準にすることはあるだろう。ただ、それを夫婦間に持ち込んでしまうと“解決”しないことが多いという。カップルカウンセラーの西澤寿樹さんが夫婦間で起きがちな問題を紐解く本連載、今回はその不毛な夫婦喧嘩に終止符をうつ方法を伝授する。

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 理恵さん(39、仮名)正義さん(39、仮名)ご夫婦はことごとく対立します。理恵さんが、きりっとしつつも感情をあらわにした表情で

「この人は、共働きなのに、家事を私に任せっきりにして、偉そうにしているんです」

といえば、夫の正義さんは、ちょっと硬い表情を変えずに、

「いや、共働きといったって、労働時間は全然違いますし、稼いでいる額だって正直全然違います。本質的に平等、ということを考えるのなら、家事も労働と考えて時間と金額に換算すればいいと思いますが、そうしても、決して私が楽をしているということはないはずです」

言い合いは続きます。

「夫は、もっともらしいことを言っていますが、要するに、金を稼ぐことが偉い、という価値観に凝り固まっていて、それは間違いだってことに気づかないんです。それに、子どもを保育園に入れて働いていて、この人がお迎えに行ってくれることはないので、私だって、もっと働きたいと思っても、残業できないし、休日出勤だってできないし、働きたくたって働けないんです」

「そうは言いますけど、実際、私の年収が妻と同じぐらいになったら、そりゃ私が残業しないで妻が残業して稼ぐというのも正しい選択かもしれません。だけど、それでは今の生活水準が維持できないんで、妻の言っていることは、小学生の言いがかりのようなもので、そんな理屈は社会では通用しないということがわかっていないんです」

 さらに話は脱線し、正義さんは結婚当初のことを持ち出します。

「妻は、結婚した時に、家計簿をつけるのは妻の役割だと決めたのに、やったのは最初の1年ぐらいで、それからは1回もやらないんです。約束を守らないというのは大人としてどうかというんですが、妻にはわからないんです」(正義さん)

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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つわりと育児で妻が断念した“約束” 夫の言い分は