帯状疱疹の治療は、皮疹の発症から72時間以内に、なるべく早く抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル)を1週間内服することが勧められています。皮疹の治癒や、痛みの消失までの期間を短縮することが示唆されているからです。残念ながら、帯状疱疹後神経痛を予防できるかどうかは、はっきりしていていないのが現状です。

 冒頭で、帯状疱疹は若い世代にも多いとお伝えしましたが、みなさんは、帯状疱疹を生じやすい年齢や性別があるのを、ご存知でしょうか。英チェルトナム総合病院で1976年から1986年にかけて診療した帯状疱疹の患者を分析した研究によると、女性が60%、男性が40%と、女性の方が多いと報告されています。

 日本においても、1997年から宮崎県において帯状疱疹の患者さんを対象にした大規模疫学調査(宮崎スタディ)が行われています。1997年から2014年までのデータによると、男性よりも女性の方が有意に多いことや、帯状疱疹の発症率(患者数/千人/年)は、1997年の3.61から2014年の5.18と増加していることもわかっています。

 また、宮崎スタディにおける年齢別の発症率は、70~79歳が8.41と最も高く、50代から増加し、60~80代にかけて大きなピークを認めました。高齢になるとかかりやすくなることは間違いありませんね。ですが、注目すべきは10代における帯状疱疹の発症率の小さなピーク(10代の発症率は2.90)です。これは、水ぼうそうの感染後、免疫が少しずつ低下することが原因になっていると考えられています。

 一方、20代の帯状疱疹の発症率は2.32、30代では2.15と、10代よりも少し減少しています。どうしてなのでしょうか。それは、20、30代では子育てをする世代は、水ぼうそうにかかった子供に接触し、水痘に対する免疫の活発化が生じる機会が多いために、帯状疱疹の発症の頻度を若干下げていると考えられているのです。

 では、帯状疱疹を生じやすい季節はあるのでしょうか。帯状疱疹は年中発生し、季節による変動は少ないです。けれども、宮崎スタディによって、冬に減少し、夏に1.19倍増加することがわかりました。ちなみに、水ぼうそうは帯状疱疹とは逆に11月ごろに流行が始まり春先にかけて増加し、夏頃には減少します。とても興味深いですよね。しかしながら、2014年10月から水痘ワクチンが定期接種となり、1~2歳児が2回接種するようになってからというもの、水痘の流行の季節変動は目立たなくなってきているようです。

 老若男女問わず発症する可能性のある帯状疱疹。母子手帳の記載によると、私は1歳11カ月の時に水ぼうそうにかかったことがありました。ですが、年齢とともに免疫が少しずつ低下することを考え、抗体検査で抗体価を確認することを希望。案の定、抗体価の低かった私は、帯状疱疹の予防をしたいと思い、再接種することにしました。今後、臨床研究を通じた検証は必要ですが、年齢問わず水痘ワクチンを接種することは、帯状疱疹の予防になると私は考えています。

◯山本佳奈(やまもと・かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバーザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

著者プロフィールを見る
山本佳奈

山本佳奈

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)

山本佳奈の記事一覧はこちら