15時25分頃、「前へ!」というコールに合わせて、DJブースにいた人々が国会議事堂のほうへとゆっくりと歩き出す。同時に反対側にいたドラム隊もコールをしながら、ステージ側の歩道に向かって移動してくる。早めに帰る人々と、前に進む人々の波がぶつかり合い、歩道だけでは人が収まりきらない状態になる。人々の体が鉄柵を押し動かす。

 「ガシャン!」と大きな音を立て、複数箇所で鉄柵が崩壊する。その音を合図にして、堰を切るように人々は車道へと走り出す。堰を切るように人々が車道へと溢れ出す状況を、私たちは「決壊」と呼ぶ。「決壊」を目の前にして、私も大型のトラメガ(拡声器)を担いで、「前へ!」とコールしながら進んでいく。

 車道に足を踏み入れると、目の前がパッと明るくなったように感じる。鉄柵によって歩道に押しとどめられている時には、周囲に生い茂った木々で空の明るさに気付かなかったのだ。人々の力で、この社会の抑圧を打ち破ったかような錯覚を起こすほどに、見える景色はガラッと変わる。そしてこの瞬間、路上に突如として、民衆のための「広場」がつくり上げられる。

 国会議事堂の真正面では、コールとレスポンスが響き渡る。人々は拳を突き上げている。その傍らの歩道にあるステージでは、人々が今の政治への思いを言葉にする。そして車道の後方にはDJブースが移動してきて、さながらクラブイベントのような様相を呈している。そんな中で、ただ静かに国会議事堂を見つめる人もいる。

 いずれにしても、「広場」に集った人々の根底にあるのは、今の政治や社会に対する怒りだ。怒りは現実を変えようとする大きなエネルギーを持っている。それが国会議事堂前で、様々なスタイルの表現となって噴出したのだ。これまでも「決壊」の場面に幾度か立ち会ったことがあるが、こんな光景を目にしたのは、初めてのことだった。

 今回の抗議では、人々の笑顔を多く見かけたような気がする。それは自らの力で「広場」をつくり上げ、自らの声を形にしたことの喜びや、ここからこの社会の民主主義をさらに豊かにしていこうという希望の表れではないかと受け止めている。

「こんな光景が根付いていけば、私たちの生きる社会はもっと自由になる」、4月14日の国会議事堂前で、私はそんな気持ちにさせられた。

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諏訪原健

諏訪原健

諏訪原健(すわはら・たけし)/1992年、鹿児島県鹿屋市出身。筑波大学教育学類を経て、現在は筑波大学大学院人間総合科学研究科に在籍。専攻は教育社会学。2014年、SASPL(特定秘密保護法に反対する学生有志の会)に参加したことをきっかけに政治的な活動に関わるようになる。2015年にはSEALDsのメンバーとして活動した

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