現地11日に勃発したRソックス対ヤンキース戦での乱闘(写真・Getty images)
現地11日に勃発したRソックス対ヤンキース戦での乱闘(写真・Getty images)

 かつては日本のプロ野球でも目にすることが珍しくなかったが、今ではほぼメジャーリーグでしかお目にかかれないもの。それは両チームの選手たちがベンチから飛び出してグラウンドで暴れまわる乱闘劇だ。現地11日にはヤンキース対レッドソックス、ロッキーズ対パドレスと、1日で2試合も乱闘が勃発した。

 もちろんメジャーでも乱闘が推奨されているわけではなく、ケガをする可能性も十分にある。ではなぜそうしたリスクがあるにもかかわらずメジャーでは乱闘がなくならないのだろうか。

 この点について、米紙『USA TODAY』が前述の乱闘が起きた翌日の12日付で興味深い記事を掲載しているので引用してみよう。

 同紙は、米4大スポーツのうちNBA、NHL、NFLではベンチから乱闘に加わることを禁じるルールが存在し、NBAとNHLでは罰金だけでなく出場停止処分もあり得るのに、メジャーリーグでは故障者リスト入りしている選手以外がフィールドに飛び出すことを禁じていないことに注目。その理由として、野球は他のスポーツと違ってフィールドに立つ選手の数が攻撃側と守備側で不均衡であることを挙げている。

 確かに守備側は常に9人が守りについているのに対し、攻撃側は最大でも打者1人と走者3人。ネクストバッターズサークルの1人と両ベースコーチを足しても7人にしかならない。ベンチやブルペンからの加勢を暗黙のうちに認めているのは、勢力的な不均衡が生じるのを防ぐ意味があると、同紙は推測しているのだ。均衡した軍事力で相手の抑止を狙った冷戦時代を経験してきたアメリカならではの発想というべきだろうか。もっとも抑止力を発揮することなく大人数での乱闘に発展することも珍しくないため、効果のほどには疑問符を付けざるを得ない。

 そして乱闘参加がリスクを伴うのは上記のとおり。昨年5月のナショナルズ対ジャイアンツ戦では乱闘の当事者ではなかったジャイアンツのマイケル・モース外野手が、やはり参加しただけの同僚ジェフ・サマージャ投手と乱闘の最中に交錯して頭を強打。これで脳振とうを起こしたモースは故障者リスト入りして残りシーズンを棒に振った。36歳という年齢、近年の成績低迷もあって今季は所属先も決まっておらず、このまま現役引退となる可能性も高いと同紙はみている。

 こうした悲劇は過去にも起こっており、米紙『New York Times』によると、20年前にも乱闘参加者を制限するルールがないことへの問題提起があったとのこと。だが当時のメジャーリーグ機構トップと選手会による話し合いは合意に至らなかったという。ちなみに『USA TODAY』が乱闘参加者の制限の有無についてメジャーリーグ機構と選手会に質問したところ、前者からはルールの必要性を認める回答があり、後者からはコメントを断られている。

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乱闘は野球の“華”なのか?