ところが、7回1死から小坂が左前安打で出塁してから、様子がおかしくなる。直後、マウンドの芝崎和広が一塁けん制悪送球。普通なら二進するところなのに、小坂は平野謙一塁コーチに「待て!行くな!」と制止され、一塁にとどまった。すると、「悪送球でも進塁しないのなら」とばかりに芝崎はボークを犯し、小坂は嫌でも進塁せざるを得なくなった。

 小坂が二塁に進むと、ショート・松井が三遊間をがら空きにして、二塁ベース上に立った。明らかに「盗塁さえ阻止すれば、タイムリーを打たれてもいい」というベンチの指示だ。厳重な包囲網のなか、小坂は三盗を試みたが、アウトになった。

 一方、松井もその裏、2死一塁から中前安打で出塁したが、ショート・松本尚樹が二塁ベース上に立ち、二塁走者・和田一浩をけん制。和田を封じることによって、松井を動けなくする作戦だった、だが、そんな警戒態勢をものともせず、2人は重盗に成功。この結果、松井は土壇場で小坂と盗塁王を分け合うことができたものの、スタンドのファンは「どっちもどっち」と複雑な表情だった。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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