これらの記事を書いたのは「米兵が日本人救助」虚報の高木桂一・前那覇支局長だけではない。訂正も削除もされないままだ。そしてターゲットには、国策である米軍や自衛隊基地建設にあらがう個人と組織、という共通点がある。産経は政府と一体となって攻撃を仕掛けているようにしか見えない。しかも、事実に基づかずに。

 記事をよく読むと、新聞紙面よりウェブ版の方が言葉遣いが荒く、事実確認も雑なことが分かる。「米兵が日本人救助」虚報でウェブ版にあった「メディア、報道機関を名乗る資格はない。日本人として恥だ」という沖縄2紙への罵倒は、紙面にはなかった。事実関係の間違いが複数ある大袈裟氏の記事はウェブ限定で、紙面になっていない。

 なぜ事実を当事者に確認するという報道の基本動作を避けるのか。ウェブ版と紙面で表現の基準に差があるのではないか。記事の訂正や削除に応じず、ウェブ版に掲載し続ける理由は何か。産経新聞社広報部に詳細に聞いたものの、「編集に関することにはお答えしておりません」という回答がまとめて返ってきただけだった。事実確認もそこそこに、激しい言葉で閲覧数と広告収入を稼ぐというビジネスの側面を疑わざるを得ない。

 罪が深いのは、産経には報道機関としての「ブランド」があるからだ。個人のSNSが垂れ流すデマは、報道機関が取り上げることで一気に説得力を帯びる。犯罪資金がマネーロンダリングで「洗浄」されるのと同じように、「情報ロンダリング」が完成してしまう。

 それがニュースとしてポータルサイトに供給されると、拡散はさらに加速する。今回、「米兵が日本人救助」虚報を取り上げたヤフーニュースは影響の大きさを受け止め、「事実関係に間違いのある記事を提供したことを重く受け止めておわびする」と異例の謝罪に踏み切った。ネットでデマが発生→産経が報道→ポータルサイトが配信→ネットでさらに拡散、というデマ拡大再生産のサイクルを断ち切らなければ、社会が壊れる。デマは単に間違った情報ではない。浴びせかけ、圧倒することで、少数者の声を奪う攻撃手段である。

 沖縄2紙と産経とでは、基地問題をはじめいろんなテーマで社論が違う。多様な意見があるのは自然で、むしろ歓迎すべきことだ。唯一の前提は、事実に基づいて議論すること。報道機関はその事実を追うプロフェッショナルの集団である。

 産経に、尊敬すべき記者がいることを知っている。本当は一緒に、デマから社会の基盤を守る責任を果たしていきたい。