『筋肉番付』の企画から派生する形で『SASUKE』が生まれた。『SASUKE』でも「真剣勝負」というコンセプトはしっかり受け継がれている。アナウンサーによる実況はスポーツ中継のように真面目なトーンであり、鉄骨で組まれたセットが照明で鮮やかに照らされている。また、出場者のレベルが上がるにつれてステージの難易度も容赦なく上がる一方だ。難しすぎて近年では完全制覇どころかファイナルステージにたどり着く人すらほとんど出ていないのだが、番組側は一度上げたレベルを下げることはない。それは真剣勝負の流儀に反するからだろう。

 さらに、この番組では作り手の意図を超えて挑戦者の情熱が独り歩きを始めている。そのきっかけとなった人物こそが、現在では「ミスターSASUKE」として知られる山田勝己である。ボンベ配送の仕事をしていた山田は『SASUKE』の第1回大会に参加して以来、その魅力に取り憑かれてしまった。次の大会が開催される保証も何もないのに、自宅に『SASUKE』のステージを再現したセットを製作し、トレーニングに打ち込むようになった。『SASUKE』に夢中になりすぎたことが原因でリストラされ、仕事を失ってしまった。それでも彼は『SASUKE』への挑戦をやめなかった。

 山田の常軌を逸した奮闘を見て、彼に続いて熱い魂を持った新しい挑戦者が次々に現れるようになった。いまや、『SASUKE』の常連組の間では「自宅に『SASUKE』のセットを作った」というのは珍しくもなんともない。山田は引退を表明してから、山田を師と仰ぐ者たちを集めて「山田軍団黒虎」という団体を旗揚げした。そこで指導者として後進の育成にあたっている。

 たかがテレビの一企画にすぎないものに人生を懸けている人々がいる。『SASUKE』は、回を重ねるごとに、彼らの生きざまを楽しむ人間ドキュメントの様相を呈してきた。

『たけし城』で出場者たちはただゲーム感覚で楽しく遊んでいた。『筋肉番付』ではプロのアスリートによる真剣勝負が行われていた。『SASUKE』では、両方のいいところを取って「たかがゲームになぜか真剣に挑む人々」を描いたことで、そこにドキュメンタリー性が生まれた。地上波テレビの影響力が年々下がっていると言われるこの時代に、多くの人々を熱狂させている『SASUKE』という番組は、存在自体が1つの奇跡である。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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