政治とスポーツを絡めないというのが五輪精神の最も重要な柱なのに、次期夏季五輪開催国の首相が、その精神を踏みにじるわけだから、世界中から批判されるか嘲笑されることになるのは確実だ。

 しかも、そうした姿勢をとれば、不参加の理由となった慰安婦問題に対しても世界の注目を集めてしまう。「Time’s Up」や「Me Too」運動が吹き荒れる中で、詩織さん事件なども相まって、安倍政権の女性の人権に対する後進性を宣伝することになってしまうだろう。これは、まさに自殺行為と言うべきではないか。

 韓国は当初、各国首脳が来てくれないかもしれないという不安感もあって、安倍総理の出席を非常に強く希望していたようだ。これに対して、日本側は上から目線で対応してきた。しかし、選手団派遣をなかなか決めなかったフランスのマクロン大統領が、自身が参加(開会式かどうかは未定)する意向を示し、EUを含めすでに二十数名の首脳クラスの参加が確実になったと言われている。さらに、先の米韓首脳電話会談で、アメリカはペンス副大統領を派遣することを伝えたので、韓国にはかなり余裕が生まれ、気分的には「安倍なんか来なくていい」と言いたいところのようだ。

 ただ、韓国政府は、日韓が対立していることを世界に宣伝するのは、日韓双方にとって不利益だと考えているため、引き続き安倍総理参加を要請していく方針だということだ。

 安倍総理は、よほど愚かでない限り、最終的には出席することになるのではないかと思うが、今のような態度を取っていると、韓国国内の反安倍心理を煽り、仮に参加したとしても、「安倍帰れ!」デモが起きたりする可能性が高まる。逆に、「慰安婦問題などにかかわらず、スポーツを愛する日本国民を代表して、平昌オリンピックの開会を韓国国民とともに祝福したい」と言って、今すぐに参加表明すれば、韓国国民の多くは、その寛容さを評価するのではないだろうか。

 もし、最後まで欠席で通す判断をするようなら、日本国民は真剣に総理の交代を考えないと、日本の国益が大きく損なわれることになるだろう。

著者プロフィールを見る
古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

古賀茂明の記事一覧はこちら