こうした韓国の考え方は、米国がいくら強硬姿勢を貫いても、北朝鮮が自ら核やミサイルの開発を放棄することはないと見ていることからきている。米国の強硬姿勢は、結局は武力衝突という結論にしか行きつかないと危惧しているのではないだろうか。

 そして、ここが重要なのだが、韓国は、仮に米国と北朝鮮の間に戦争が起きても、理由なく韓国が巻き込まれるのは避けようと考えているのだと思われる。安倍政権とは全く異なる考え方だ。

 その観点からは、冒頭に紹介した、北朝鮮祖国平和統一委員会の李善権(リ・ソングォン)委員長の発言「すべての最先端戦略兵器はアメリカを狙ったものでわが同族(韓国国民)を狙ったものではない」は、極めて重大なメッセージだということになる。

■米国に対しカードを持つ韓国と安倍政権、違いは?

 今回の南北会談について、世界中の評価は基本的には、非常にポジティブだ。国連のグテレス事務総長は、「軍事当局間会談の開催と軍事ホットライン(黄海の南北直通電話)の再開をはじめ、軍事的緊張を緩和することで合意するなど進展を遂げたことを歓迎する」との意向を発表した。主要国のメディアも、北朝鮮を信用はできないという留保はつけつつも、これまで破局に向けて進むしかないかに見えた緊張状態を少しでも良い方向に変えるチャンスであると評価している。

 トランプ米大統領も、10日の首脳電話会談で、文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領に対し、「適切な時期と状況で北朝鮮が望むなら対話(の可能性)が開かれている」と強調し、南北会談が米朝対話につながる可能性について前向きの評価をした。また、この電話会談では、「南北対話が行われている間はいかなる軍事的行動もない」という発言をしたとも報じられている。

 これは韓国にとって非常に大きな意味がある。なぜなら、オリパラ後も軍事協議や離散家族再会に関する協議などが続いている間は、戦争にならないということにつなげることができるかもしれないからだ。戦争回避を最優先する文大統領にとっては大きな得点になると言ってよいだろう。ただし、トランプ大統領の一回限りの発言にどれだけの意味があるのかは疑問という留保付きではあるが。

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