年末年始に放送されるバラエティ番組の中でも、お笑いファンやお笑い業界関係者に最も注目されている番組の1つが『ぐるナイ! おもしろ荘SP』(日本テレビ系)である。毎年正月に放送されるこの番組は、新人発掘型のネタ番組として有名だ。

 ほかの番組にもほとんど出ていないような目新しい顔ぶれが見られることが多い上に、その中からしばしば大ブレークする芸人が出てくる。過去には横澤夏子、おかずクラブ、ブルゾンちえみがこの番組で飛躍のきっかけをつかんでいる。

 今年、出演していた芸人の中で、視聴者に最も強い印象を残したのは完熟フレッシュだろう。完熟フレッシュは、モヒカン頭で筋肉質の中年男性である池田57CRAZYと、おかっぱ頭の女子中学生である池田レイラのコンビ。中学生で芸人をやっているというだけでも珍しいのだが、さらに驚くべきは、彼らが実の親子であるということだ。

 父親である池田57CRAZYは、もともと別のコンビで芸人として活動していたのだが、なかなか芽が出なかった。その間に妻に愛想を尽かされてしまい、離婚して父子家庭となった。彼は娘を養うためにサラリーマンとして働き始めたのだが、芸人としての夢が捨てきれず、2016年に娘とコンビを組んで新たに活動を始めた。

 すると、娘が思わぬ才能を発揮した。実際の親子関係を元にした自虐ネタが評判になり、瞬く間に頭角を現し始めた。結成2年目に挑んだ『M-1グランプリ2017』では準々決勝まで進むという快挙を成し遂げた。そして、前のコンビ時代には一度も受からなかった『おもしろ荘』のオーディションにも一発で合格して、見事に出演を果たしたのだ。

 完熟フレッシュの面白さは、レイナの父親に対する容赦ない毒舌にある。「ウケないくせにダラダラ(芸人を)続けるから、ママが出てっちゃった」とキツい言葉を浴びせて、「芸人やってて売れないなんて罪だから」と断言。そして、正面を向いて「皆さん、売れない芸人はもはや犯罪者です」と主張する。父親はタジタジになるばかりだ。

 でも、娘とのコンビに手応えを感じている父親は「娘の七光り」で売れさせてほしい、と甘えた態度に出る。そこで娘は「生まれてくる家、間違えたー!」と、とどめの一言を放つ。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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