相方が売れない芸人であることをここまでボロクソに罵る漫才は珍しい。同じことを普通の芸人がやったらもっとキツく見えてしまいそうだが、純朴そうでかわいらしい女子中学生が実の父親にそれを言うことで印象がマイルドになっている。


 昨年、『M-1グランプリ』の予選で彼らを見たときにも、娘のレイラの堂々とした雰囲気に驚かされた。この手のネタは、子供の態度に「やらされている感」が少しでも見えたら笑えなくなってしまう。だが、レイラにはそれが一切感じられなかった。落ち着いた調子で一方的に父親をこき下ろすのが、実にさまになっていて痛快だった。

 完熟フレッシュは親子コンビであると同時に、男女コンビでもある。男女コンビでは、男性側がいかに「負け顔」を見せられるか、というのが大事になる。対等な立場でやろうとすると、どうしても男性が女性を抑圧しているように見えてしまいがちだからだ。宮川大助・花子、南海キャンディーズなど、名のある男女コンビでは男性が下手に出て、女性の良さを引き出すサポート役に回ることが多い。

 完熟フレッシュの2人も、この役割分担がきちんとできている。父親の57CRAZYは「サラリーマンでありながら、芸人として売れる夢を捨てきれないダメ人間」という立場に徹して、娘の直言をそのまま受け止めている。

『おもしろ荘』では、ネタの後のトークのときにも、57CRAZYは緊張してうまくしゃべれず、レイラから「ほら、大事なとこで噛む」「だから最初から黙っとけって」と苦言を呈されていた。普段の親子関係が漫才のネタにそのまま反映されているのがうかがえる。

 フリーで活動していた彼らが、この番組の放送直後にはワタナベエンターテインメントに所属することが決まったと発表された。テレビでの活躍が認められてワタナベ入り、というのは昨年の『キングオブコント』で準優勝したにゃんこスターと同じ流れだ。すでに出演オファーも殺到しているという。中学生プロ棋士として昨年ブレークした藤井聡太四段のように、今年は中学生芸人のレイラが世間を騒がせることになるかもしれない。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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