「おんな太閤記」で主人公のねね役を演じた佐久間良子さん(C)朝日新聞社
「おんな太閤記」で主人公のねね役を演じた佐久間良子さん(C)朝日新聞社

 今夏、92歳の橋田壽賀子が自身の死生観を綴った「安楽死で死なせて下さい」(文春新書)が大きな話題になった。

「迷惑をかけるなら、そうなる前に死なせてもらいたい。死に方とその時期の選択くらい、自分でできないかなと思うのです」との橋田の往生論が、「安楽死」をタブー視する日本の高齢化問題に波紋を投げかけたのだ。

 1981(昭和56)年の大河ドラマ19作目の「おんな太閤記」は、後年「おしん」や「渡る世間は鬼ばかり」のヒット作品の脚本家として知られることになる橋田のオリジナル脚本だ。 

 女性の視点で戦国時代を見つめるという新鮮さが女性に支持されて最高視聴率36.8%、平均で31.8%という大ヒットを記録した。この数字は「赤穂浪士」に続いて2位にランクされ、現在でも大河史上歴代5位をキープしている。

 一躍ヒットメーカーに躍り出た橋田は、本作について、「史実ではあまりねねの側から書いたものがなくて、お芝居なんか見ても刺身のつまみたいにしか出てこなかった。平社員の女房から大企業の社長夫人になったその中で、女が節目節目で何を考えて夫についていったのか。彼女自身は少しも面白くなかったのかもしれませんが、ほかにそんな面白い人生を送った人はいない。妻になり、側室の女性たちの面倒を見、最後に政治家に成長。一人の女性が死ぬまでをたどる過程を見つめることができるのは作者冥利に尽きる」と語っている。

 女性を主人公にした大河ドラマは「三姉妹」に続いて2作目だが、ねねというひとりの女性にスポットを当てたドラマは初めてのこと。 

 チーフ・プロデューサーの伊神幹によれば、「今までの戦国時代の取り上げ方はどちらかといえば男の生き方ばかりをやってきたので、女性に焦点を当てるとまた違った見方ができるのではないかと思った」ことから生まれた大河ドラマだ。

 ねね役を演じた佐久間さんは当時のことを次のように語っている。

「橋田先生の脚本は長いセリフで有名ですが、実際に読ませていただいて何ページにも及ぶような長いセリフが覚えられるのかどうか大変に不安でした。それと一年という長丁場ですから体力的に続けることができるかどうか、オファーいただいたときにはずいぶん躊躇しましたね。私は見かけによらずおっちょこちょいなんですが橋田先生はその辺をよくご存知ですから、庶民的な女房を演じられると思って下さったようです」

著者プロフィールを見る
植草信和

植草信和

植草信和(うえくさ・のぶかず)/1949年、千葉県市川市生まれ。キネマ旬報社に入社し、1991年に同誌編集長。退社後2006年、映画製作・配給会社「太秦株式会社」設立。現在は非常勤顧問。

植草信和の記事一覧はこちら
次のページ
豊臣秀吉の妻、ねねという女性の魅力とは