またねねという女性についてはこう語る。

「豊臣家という大ファミリーを束ねていく器の大きさと、周囲の人たちに気づかいをおこたらない優しさをあわせ持った女性だったのではないでしょうか。そんな女性を今まで演じたことがなかったので新鮮な気持ちで演じることができました。長いセリフを覚えるのは大変でしたが相手役の西田敏行さん(豊臣秀吉)や中村雅俊さん(豊臣秀長)が楽しい方で、車座になってセリフのお稽古をしたりしたことが忘れられない思い出です。週一回の収録が楽しくて待ち遠しくて、あんなに和気藹々として楽しい現場は体験したことがありませんでした」

 まるで橋田壽賀子のホームドラマを彷彿させる撮影現場の雰囲気だが、その和気藹々としたムードが見る者にも伝わったことが高視聴率に繋がったのだろう。ねねの性格も大河第2作目の「太閤記」のような夫唱婦随の良妻としてだけではなく、現代的な自我も嫉妬心も露わにする普遍的な女性として描かれている点も現代の女性に支持された要因かもしれない。佐久間さんは「格式ばらない主人と女房という事で喧嘩もするし焼きもちも焼き甘ったれもする、そんな普通の家庭の雰囲気を出したいと思って演じました」と付け加える。

 時代劇とホームドラマの要素を融合させた「おんな太閤記」は、42.6%という驚異的な視聴率を誇る「女たちの忠臣蔵」と対を成し、“大衆に受け入れられてこそ価値がある”という橋田のドラマ作りの信念を確固たるものにした作品だ。

 劇中で秀吉(藤吉郎)がねねを呼ぶ際に用いた二人称“おかか”は大河かが生んだ初めての流行語になった。従来、秀吉をめぐる女性としては側室の淀殿がよく知られているが、「おんな太閤記」以降ねねが登場するドラマ・小説・漫画が増えたことも、本作の知名度の高さを物語っている。
(植草信和)

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植草信和

植草信和

植草信和(うえくさ・のぶかず)/1949年、千葉県市川市生まれ。キネマ旬報社に入社し、1991年に同誌編集長。退社後2006年、映画製作・配給会社「太秦株式会社」設立。現在は非常勤顧問。

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