――この作品に込めた思いは?

 生きていれば、心が折れるような辛いことや大変なことがたくさんある。そういう時は、ジャンジャン炒めてガンガン食えばいい。人が立ち直るときに必要なのは、気力と体力です。気力は笑って寝るしかない。体力は食べるしかない。おいしいものを食べれば笑顔になって気力を取り戻し、お腹がいっぱいになって寝れば体力も取り戻せる。そうやって人間は立ち直って行くんだと思う。周りの人は無理に言葉をかけなくていい。自分のために何かしてくれる存在に気づくことができれば、人は自然と笑顔になれるから。

「エッグマン」では、シンプルにそういうことを描きました。サトジは不器用な男で気の利いたことは言えないけれど、大切な人を励ましたくて一生懸命料理を作る。サトジが愛する女性マヨと、その娘のウフちゃんは、それぞれいろんな問題を抱えながらも、サトジの手から生み出されるおいしい料理を食べることで元気になる。その姿を見て、サトジも元気になる。

 物語に登場する卵料理の多くは、卵に卵のソースをかけるなど「卵×卵」です。卵と卵を掛け合わせると、とってもおいしくなると気づいて。人間も、人と人とが出会って友情や愛情が生まれ、孤独から解放されて、気持ちが満たされる。読み手の方にそう感じてもらえたらうれしいですね。

――読んでいると、おいしそうな卵料理の数々にお腹が鳴ってしまいました。

 ゆで卵を用意して読むといいかもね(笑)。おいしいゆで卵を作るコツは「時間」です。黄身が絶妙にトロッとする半熟卵にするためには、沸騰したお湯に入れて6分ジャスト。卵には一番おいしくなる瞬間があって、それを見逃さないことです。

 子育ても同じ。人間の成長の過程で、この子にとって一番大事な瞬間がある。そのときにそばにいてあげればいい。料理を通じて気づかされました。

 僕にとって料理は、子どもを立ち直らせるための、そして、自分が立ち直るための手段だった。「愛してる」という言葉に逃げなくていいように、料理にすがったんです。そして、子どもを託されたことで僕なりに学び、自分の生き方を心から改めることになりました。『エッグマン』は、そんな僕と息子の二人三脚の暮らしから生まれた愛情料理小説なのです。

(取材・構成/中津海麻子)