11月30日、農水省は、減反廃止後で初となるコメの「需給見通し」を公表した。2018年産の国内コメ生産は、17年産見込みより4万トン(0.5%)増の735万トンを見込むという。減反が無くなっても、生産大幅増は実現しないということだ。さすがに、生産減少という予想はまずいから、あえて「微増」の見通しを立てたのだろう。しかし、4万トンというのは誤差の範囲に過ぎない。

 この生産量を前提にすると、在庫の水準は今後も低水準が続き、その結果、価格は高止まり、ないしさらに値上がりする可能性が高いという。

「コメの価格を下げるな」と農協が叫ぶとなぜか安倍自民党は必死にその声に応える。しかし、私たち消費者が「コメの価格を下げて」と言っても、安倍総理は無視するだけだ。そもそも、アベノミクスの最大の目標の一つが「デフレ脱却=物価上昇」である。食品値上げに苦しむ消費者を横目に日銀の黒田総裁と安倍総理は祝杯を挙げるのだろうか。

 折しも、今年度の補正予算の議論の中で、日欧EPAの大筋合意などを受けて、またも3000億円もの農業補助のための予算をつけようという動きが強まっている。すでにTPP対策と称して、15年度補正、16年度補正で合計6500億円超の予算が計上された。米国が脱退した後も、その予算は撤回されていない。何かと口実をつけては、国民の税金を無駄な農業予算のバラマキに使うということが際限なく続いているのだ。

■農政を国民の手に取り戻せ

 それにしても、マスコミも消費者も、こんな出鱈目な農政についてあまりにも無関心ではないのか。消費者団体の中には、飼料用米の増産が、国産飼料による畜産にプラスになるという理由で、これに賛同しているところもある。ここまでくると、高いコメを押し付けられて消費者が犠牲になるのは自業自得という気もしてくるが、あきらめてはいけない。

 手遅れにならないうちに、今すぐ農政の大転換を行うべきだ。減反政策を引き継ぐJA主導の事実上のカルテルを禁止し、飼料用米への補助金も廃止する。そのうえで、高関税で農家を保護するのを止めて、やる気と能力のある農家への直接支援を行なう。そのコストも明確化し、予算審議などを通じて、他の政策課題との優先順位をしっかり付ける。こうして市場の競争が機能し始めれば、コメの国際競争力は、確実に上がるだろう。

 日本沈没の戦犯たちから、農業を国民の手に取り戻さなければならない。 

著者プロフィールを見る
古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

古賀茂明の記事一覧はこちら