減反廃止で価格が下がると困るという農家からの訴えに応えるため、安倍政権は、絶対に価格を下げるなと農水省に厳命した。これを受けた農水省幹部は、死に物狂いで全国を回り、生産調整を進めた。

 さらに、これまでやっていた転作奨励補助金のうち、飼料用米の生産に対して破格の金額を付けることにした。水田を畑に変えてしまうのには抵抗がある。だから、大豆などへの転作にはどうしても二の足を踏みがちだ。そこで同じコメの転作の方がハードルは低いということで、主食用のコメから飼料用米の生産にシフトすれば、10a(アール/1反)あたり収量に応じて最大10万5000円という巨額の補助金を出すことにしたのだ。

 ちなみに、大豆や麦を作った場合は、10aあたり3万5000円だから、その3倍にもなる。

 ここまで高い補助金を出すのは、逆に言うと、飼料用米の市場価格が非常に安いということを意味している。

 この破格の補助金の効果は絶大だった。実は、現在の制度を始めた04年以降、減反目標を達成したことはなかったのだが、15年産米では、初めてこれを達成してしまった。

 生産量が減少すれば、価格は上がる。農水省の政策のおかげで、コメの価格は確かに14年を底に、3年連続で毎年約1割上昇した。おおざっぱに言うと、14年約1万2000円、15年約1万3000円、16年1万4000円台、そして、今年は1万5500円台まで上昇してきている。

 農水省の政策によって何が起きたかを振り返ってみると、コメの生産量は減少し、コメの価格は高止まりどころか上昇した。さらにコメ全体で見ると主食用が減って飼料用が増えたのだから、付加価値は下がった。

 この三つの現象は、前述したコメの輸出産業化の3条件とちょうど正反対の動きになっている。

 実は、主食用米から飼料用米へのシフトは、単に主食用米の値上がりだけでなく、深刻な量の不足も引き起こした。レストランや牛丼チェーンが使う国産業務用米の供給が減少して、調達に困る業者が続出。そのあおりで、米国産米など海外からのコメの輸入が急増している。輸出拡大どころか、輸入増という結果まで引き起こしているのだ。

 いかに安倍政権の農業政策が見掛け倒しのトンデモ農政であるかがよくわかる。

 そもそも、少子高齢化や国民の食生活の変化によって、食用米の国内需要は年間750万トン台と10年前に比べ100万トン近く減った。このままでは、ただでさえ国内需要が落ちているのに、さらなる価格上昇で需要減に拍車がかかるのは必至だ。安倍政権の農業政策が「じり貧政策」と揶揄されるのは当然のことである。

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減反廃止後も減反政策?