脳脊髄液減少症は通常、起き上がっているときには症状が強く、横になると症状が軽くなることが多い。「うつ病」と診断されたり、周囲からただ単に怠けていると誤解されることもあり、患った当事者にとっては心身ともにつらい病気だ。
下村さんは、この病気を現在までに1千例ほど診ている明舞中央病院脳神経外科の中川紀充(のりみつ)医師を紹介され、同年3月末に中川医師のもとを訪れた。
「下村さんの、起きていると頭痛などが増し横になると軽減するという症状から、脳脊髄液減少症を疑いました。このような場合、発症初期では、水分を十分とり2週間ぐらい安静にする保存療法をおこないます。下村さんの場合は、自宅ですることが困難だったので、入院となりました。保存療法と点滴をおこない、その間にMRI(磁気共鳴断層撮影)検査を実施しました」
追突外傷後のような場合、早い時期では、むちうち症か脳脊髄液減少症かは区別がつきにくい。そのため経過観察が必要だと中川医師は説明する。
2週間後に退院し通常の生活に戻った下村さんだが、症状はわずかに改善した程度だった。入院中、MRIで若干、脳脊髄液減少症が疑われる部分が見られた。そのため、診断の材料として腰の硬膜外腔へ生理食塩水を注入したところ、一時的に症状がとても改善したということもあり、2カ月後の6月に再度入院し脳脊髄液減少症についての詳しい検査を受けることにした。
検査は、髄液漏れの場所や程度を調べる「脊髄MRI/MRミエログラフィー」「RI脳槽シンチグラフィー」「CTミエログラフィー」の三つだ。中川医師が言う。
「この検査の結果、下村さんには明らかに髄液の漏れが認められたため、ブラッドパッチ(硬膜外自家血注入療法)を頸と腰の2カ所に実施しました」
「ブラッドパッチ」とは、自分の血液を硬膜の外側に注入し、そこでできるかさぶたで髄液が漏れる穴をふさぐという方法だ。下村さんは13年8月の診療時に7~8割の症状改善が見られ、14年の1月にはほぼ完治し、通院も不要になった。