前半10分に先制点を許したPKはジェズスを両手でホールディングした吉田の個人的なミスだし(ビデオ・アシスト・レフェリーの判定でPKと認定)、17分の2失点目は井手口の「完全にフリーな状態からのクリアミス」(ハリルホジッチ監督)を拾われてのものだった。経験豊富な吉田“らしくない”対応だったし、いつもの井手口なら考えられないプレーと言える。それだけブラジルのプレッシャーに、吉田は慌ててしまい、井手口は周囲の状況を把握する余裕を失っていたのかもしれない。

 2失点につながった左CKは、ネイマールのPKをGK川島永嗣が防いで生まれたものだが、その前の場面でジェズスが起点となったカウンターからウィリアン、ジュリアーノとつないで右サイドを崩し、最後はジェズスが山口に倒されPKというブラジルの速くて厚みのある攻撃に、日本DF陣がパニックに陥っていた可能性が高い。

 同様に36分の3失点目も、カットインした久保のドリブルをブラジルがふたりがかりで奪ってカウンターを仕掛け、右サイドでボールをキープしたウィリアンの外側をダニーロが駆け上がった展開から喫したものだった。1982年スペインワールドカップで初めてブラジルが披露した、伝統的な“ふたつの廊下”攻撃から最後はジェズスがフリーで流し込んだ。

 この得点シーン以外にも、ブラジルは自陣でのCKやFKではチャンスがあればカウンターを虎視眈々と狙っていた。試合前日に「ワールドカップは守ってカウンターというのが主流になっている」と長友は語っていたが、逆にこの日の日本がカウンターを仕掛けたシーンは一度もなかった。

 試合後にハリルホジッチ監督が「このようなブラジルは見たことがない。自分のポジションに戻り、プレッシングする」と驚いていたように、FWでも労を惜しまず前からプレスをかけ、吉田や槙野がGKにバックパスするとDFラインを高く押し上げる。日本が相手でも、抜かれかけたら反則で止めるなど、彼らは勝負にこだわっていた。2014年に自国で開催したワールドカップでドイツに1-7と惨敗したことで、ブラジルも王国のサッカースタイルを方向転換したようだ。

 チッチ監督になってモデルチェンジしたサッカー王国ブラジルと対戦したことで、日本も敗れたとはいえ現代サッカーの本流を肌で感じられたことは収穫と言っていい。日本の指揮官も「(前半は)改善点もあるし、後半は満足できるプレーもあった。前半が0-0だったら、この試合で偉業を成し遂げることができた。敗戦は喜べないが、後半は良かったので、このような試合で学んで進化しないといけない」と手応えを感じていた。

 自身の自宅があるホームグラウンドで敗れたにもかかわらず、これほど柔和な表情のハリルホジッチ監督は初めて見た。この敗戦を次のベルギー戦で生かせるか。海外組にとって最終テストとなるだけに、スタメンも含めて指揮官の起用に注目したい。(サッカージャーナリスト・六川亨)