◆総選挙で全く議論されなかったもう一つの争点

 二つ目の争点であるアベノミクスについては、消費税増税について、増税するという与党に対して、その延期、中止を求める野党という対立軸はできた。しかし、実は、有権者の大半は、消費税を上げられるのは困るが、かといって、増税なしでバラマキ政策だけを唱えられても将来不安は解消しないと考えている。国民は、子育てだ、高校無償化だということを言われて手放しで喜ぶほど愚かではないのだ。ここでは、各党が同じような政策を並べたが、おそらくいくら甘い言葉をかけても政策の差別化にはつながらなかったと見た方が良い。 

 実は、社会保障や教育・子育てなどはどんなに野党が叫んでも、与党はそれなら私が実現しますという形でパクってしまえば、簡単に争点を消すことができる。与党は政策実現力があるから、むしろ、そちらが有利になってしまうのだ。
 
本来は、ここで争点にすべきなのは、自民党が簡単にまねできないことでなければならない。しかも、日本にとって死活的なテーマであることが必要だ。例えば、日本の産業をどうやって立て直すのかという論点がある。日本の製造業では、お家芸だった電機産業がほぼ壊滅した。家電、液晶、半導体、携帯電話、さらには太陽光・風力発電などの産業が、世界から完全に取り残されてしまっている。電気なき後、頼りになるのは自動車産業だけ。「自動車一本足打法」という状況だ。

 しかし、実は、その自動車産業が危機的状況にあることは、最近まであまり知られていなかった。日本では、いまだにトヨタが世界一の自動車メーカーのリーダーだと思っている人が多いのだが、実際は、世界の電気自動車開発の波に乗り遅れ、かなりの危機に立たされている。

 そんな状況を招いたのが、アベノミクス第三の矢である成長戦略だ。毎年発表される成長戦略には、美辞麗句が並ぶが、実は、その内容は、各省庁の予算要求の根拠となる文章と経団連などの業界団体からの御用聞きリストが羅列されているだけだ。

 そこには安倍政権になってから、水素自動車の開発についての様々なプロジェクトや助成措置、規制緩和がこれでもかとばかりに並んでいる。一方、世界の主流となった電気自動車についての政策はほぼ皆無だ。これは安倍政権5年間一貫した特徴である。

 その理由は、トヨタが電気自動車には目もくれず、水素自動車一本やりで開発を進めていて、同社の要望を聞いた経産省がひたすら水素自動車優先の政策を採り続けているからだ。しかし、これが裏目に出て、トヨタは電気自動車で完全に出遅れてしまった。

 アメリカのカリフォルニア州はじめ10州がトヨタの得意なハイブリッド車をエコカーから外したが、それを機に新興自動車メーカーのテスラ社が、EVの普及版「モデル3」を今年から投入。一気に米国市場でEV最強企業にのし上がった。GMやフォードなどもそれを慌てて追いかけている。一回の充電で走行できる距離でもテスラは「モデルS」ですでに500キロメートルを達成。

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