51年前の秋に録音され、ヘンドリックス伝説の原点となった「ヘイ・ジョー」は彼のオリジナルではない。すでに何組かのアーティストによるヴァージョンが存在していて、作者や原典に関しても諸説あったのだが、ジミは、ティム・ローズというフォーク系シンガーのレコードで知ったという。そして、なにか閃くものを感じ、エレクトリック・ギターを生かしたヘンドリックス版に仕上げていった。サム・クックやアイズリィ・ブラザーズとの活動をへてニューヨークのグリニッジヴィレッジで自分自身の活動を模索するようになったころにはもう、ステージに欠かせない曲になっていたらしい。

 ちょうどそのころ、アニマルズのベーシストだったチャス・チャンドラーがヴィレッジのクラブ「カフェ・ホワ?」に未知の存在だった彼を訪ねている。当時のキース・リチャーズのガールフレンドに勧められて、ということだったらしいが、マネージャー/プロデューサーとしての次の道を模索していた彼もまた、しばらく前からローズ版「ヘイ・ジョー」に強い関心を持っていた。

 二人の出会いはまさに運命的なものだったのだろう。結局、チャンドラーの誘いを受ける形でヘンドリックスはロンドンに向かい、そして、ごく自然な流れで、最初に世に問うシングルとして「ヘイ・ジョー」が選ばれたのだった。

 60年代フォーク・リヴァイヴァルの中心地でもあったカフェ・ホワ?は、今も健在。その聖地を出て、ワシントン・スクエアを右手に見ながら8thストリートまで歩いていくと、70年代以降のヘンドリックスの創作拠点となるはずだったエレクトリック・レディ・サウンド・スタジオがある。さらにその道を南東の方向に進むと、レッド・ツェッペリンの『フィジカル・グラフィティ』のジャケットの、あのアパートメント・ハウスが右側に建っている。一階に上がる短い階段では、ストーンズの「ウェティング・オン・ア・フレンド」のミュージック・ビデオが撮影された。ついでの紹介みたいになってしまったが、このあたり、音楽好きにはお薦めの散歩道だ。

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