そして、それを政党も利用している。選挙区で立候補した医師29人中、11人が1区からの出馬だ。都市部の浮動票獲得が目的だろう。しかし、このようなやり方で、ゲバラや今井は生まれない。

 医師が国会議員になって何ができるか。多くの医師立候補者は、日本医師連盟のような支援団体を背景にもたず、霞ケ関や経営者の経験もない。スポーツ選手や芸能人ほど、知名度が高いわけでもない。彼らと同じことをやっても、陣笠議員で終わるだけだ。

 では、医師しかできないことは何か。私は、少子高齢化社会での地方崩壊のリアリティーを知っていることが大きいと思う。

 ゲバラ、孫文、今井も地方の疲弊を体験し、地道な活動で仲間をつくりながら、歴史に名を残す政治家へと成長した。その際、患者と直に接する医師であることは有利だった。

 国民は、彼らの真摯な姿勢を熱狂的に支持した。そうして社会は合意を形成し、世界は動いた。いまの日本社会に必要なのは、彼らのような真のリーダーだ。この点で、医師であることは、官僚や経営者より有利だ。社会から見捨てられた患者と直に接するからだ。経営戦略や政策など「机上の空論」に終始しがちな、大企業のエリートサラリーマンや官僚とは違う。

 政治家を目指す医師は、この点にウェートを置けばいいと思う。それこそ、国民が望んでいることだ。今回、立候補された医師の皆さんには、単なる「議員」ではなく、地に足の着いた「政治家」になっていただきたい。

著者プロフィールを見る
上昌広

上昌広

上昌広(かみ・まさひろ)/1968年生まれ。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長。医師。東京大学医学部卒。虎の門病院や国立がんセンター中央病院で臨床研究に従事。2005年東京大学医科学研究所で探索医療ヒューマンネットワークシステムを主宰。16年から現職。著書に病院は東京から破綻する(朝日新聞出版)など

上昌広の記事一覧はこちら