その点、ブルゾンの立ち振舞いはどこまでも自然だった。自分のできる範囲で与えられた仕事を誠実にこなす、という使命感にあふれていた。また、それを実現できるだけの器用さも持ち合わせていたのだろう。そのまっすぐな姿勢が多くの人に支持される要因になったのは間違いない。

 ブルゾンは、テレビに出始めたばかりの頃から、堂々とした自然な態度を貫いていた。その様子からは、タレントとしての任務をきっちりこなそうとする気持ちがダイレクトに伝わってきた。

 ただ、そうは言ってもまだまだ駆け出しのひよっこ芸人である。時には失敗することもある。2月28日放送のピン芸日本一を決める「R-1ぐらんぷり2017」(フジテレビ系)では、ブルゾンちえみはネタの途中で言葉に詰まる場面があり、ネタが終わった後に感想を求められて、「めっちゃネタとばしちゃった……」と言って、涙を浮かべていた。

 好感度の低い人だったら、「芸人が人前で泣いてどうする」と批判されてもおかしくない場面だ。ところが、世間では泣いてしまったブルゾンを支持する声の方が大きかった。この時点で、ブルゾンは「芸人」というよりも1人の「人間」として愛されていたというのが分かる。

 1つのネタやキャラがきっかけで急に人気が出た芸人は、そのネタやキャラに縛られてしまいがちなものだ。キャラのイメージに引きずられて、素の自分をなかなか出せなかったりする。最近のトークバラエティ系の番組で求められるのは、どちらかと言うと「素の自分」の方だから、その移行がスムーズにできない芸人は、人気を維持できずに「一発屋」のレッテルを貼られてしまう。

 一方、ブルゾンは初めから「素の自分」を自然に表に出すことができていた。テレビというのは恐ろしいもので、映像として映っていないその人の人柄や人間性まで伝わってしまうところがある。ブルゾンの最大の武器は、そのネタやキャラではなく、飾らない素直な人間性にあるのだと思う。(文/ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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