赤がこれほど注目されるのは、1980年代のバブル期以来だろう。ただ、当時の赤は空前の経済成長を背景にした、華やかで目立つ、異性の目を意識した色だった。今回の場合はジェンダーの意識を超えた、もっとしなやかで意志的な香りがする。

 この春に開かれた各都市のコレクションでは、世界に広がる排外主義に反発するような表現が目立った。ヴェルサーチではデザイナー自身が「平等」との文字入りの服を着て現れ、ミッソーニは女性の権利を唱えるデモ「ウィメンズマーチ」のように、モデル全員にピンクの耳ニット帽をかぶらせた。あらゆる地域から年配のモデルも多数登場させたドリス・ヴァン・ノッテンの「女性は今こそ服で意志を表すべきだ。その表現は、若い子よりも人生経験を積んだ人の方がちゃんと服に息を吹き込める」という言葉が心に残った。

 赤い色で自らの意志をまとう。年を重ねるのも悪くないのかもしれない。(文/朝日新聞編集委員・高橋牧子)